空を泳ぐ鯨 2.


 その痛みといったら、今まで感じたことのある性的な痛みの中でも上位に入るくらいには痛く、そしてたまらなく感じるものだった。
「ヒッ……い、たっぁっ……!! あぁぁっ……!!」
 思わず悲鳴のような声が出てしまうが、勇作は止まらずにさらに犬歯で乳首を潰すように噛んできたので、痛さのあまり涙で視界が滲む中、何とか顔を退かそうとするが、それは叶わずその代わり、ちろっと舌が見えたと思ったらふわっと痛みが激しい乳首の上に舌が乗る。
「はぁぁぁぁー……!! あああ、あああううううっ!! ゆ、ゆう、ゆうさくっ、いやだ勇作っ!!」
「いやでは、ないでしょう。嘘は良くないです。好きなくせに、こうされるのが兄様は好きでしょう?」
「き、きらいだっ!! も、もう止めるっ! こんなのきらいだ、いやだっ!!」
 何とか勇作と離れようともがくが、がっしりと抱き込まれてしまいそれもままならない。歯噛みして鼻を啜ると、勇作が心底困ったような顔をして腫れ上がった乳首を優しく舐めてくる。
「ごめんね、兄様。私は兄様を泣かせたかったわけじゃなくて……ごめんなさい、泣かないで兄様」
「こんなの全然気持ち良くないっ! この、童貞!! あなたは何も分かってない!! 下手くそ!!」
 尾形の悪態をどう思ったのか、ひたすらに優しく乳首を舐めるだけ舐めてきて、痛みが薄れてくるとやってくるのは極上の快楽だ。
 痛かったからこそ得ることのできる快感に、身体がすぐに解れて熱くなっていくのが分かる。
「は、あぁっ……ん、あっ、あっあっ、はっ……!」
「兄様、声が甘くなった。ふふ、嬉しい。兄様が悦んでる。かわいい」
「チョーシに乗って……! 痛いんですよ、俺は!!」
 思い切り怒鳴るが、勇作はどこ吹く風でちゅっと真っ赤に腫れた乳首を赤ん坊のように吸ってくる。そこでもやはり先ほどの暴挙が効いていて、若干の痛みが走り顔を歪めるとまた謝るかのように柔らかく優しく舐めてくる。
「んっ……!! ああっ……!!」
「舐められるの、好きなんですね。でも、噛まれるのも好きでしょう? 兄様、自分では気づいていないかもしれませんが、少し嬉しそうなんですよね、噛むと。だから噛んでもいいのかなって」
 舌がふわふわと動き、痛んだ乳首はまるで文字通り癒されているようだ。すぐにでも快感が胸から立ち上り、その飴と鞭に何が何だか訳が分からなくなってくる。
 噛まれて嬉しいのか、それとも痛いだけで苦しいだけなのか。答えは、ノーだ。確かに噛まれている時は痛くて涙が出るが、その後からやってくる舐められる快感が強すぎて、噛まれたことさえ忘れてしまうほどの快楽は他では手に入らない。
 勇作だけの、愛撫。勇作が持っている、勇作しかできない愛撫なのだ、これは。
 そう思うと不思議と抵抗が薄れていくのが分かる。そして、次を欲してしまう自分の浅はかさが悲しいが、左乳首も同じように噛んで欲しいと思う自分が居る。
 否定したくない。強くそう思ってしまい、じっと勇作を見つめると勇作も同じように見つめてきて、見つめ合いになり、勇作の瞳の中には得体の知れない何か炎のようなものがちらついており、それが欲情だと知ると何となく安心してしまう自分も居て、小さな声で懇願してしまう。
「左……噛んで、噛んでください。噛んだ痕……ちゃんと、舐めるように」
「……はいっ。分かりました。兄様が好きなように好きなだけ、痛くして気持ちよくしてあげます。兄様が、何処にも行かないように……私だけ、見るように」
 最後にもう一度だけ右の乳首を吸ってから、舌を尖らせてつつっと左へ唾液の痕をつけながら移動し、まずはぺろりとお試しとばかりに左乳首を柔らかな舌が舐めてくる。
「やっぱり美味しい。兄様のにおいを、凝縮したような甘い味がする……」
「はっ……そんな、こと」
 何故か羞恥心が湧いてしまい、拳を作って口元へ当てるとすぐに退かされてしまい、その手を勇作がぎゅっと握ってきて恋人繋ぎになる。
「……だめ。隠すのはだめですよ兄様。感じてる顔、ちゃんと見せてくれないとだめです……だめ」
 何度も「だめ」を繰り返し、硬くした舌先で乳首を突くとたったそれだけでも充分な快感が身体に流れ込んでくる。
「はっ、あぁっ……!! んっ、気持ちいっ……!!」
 自由になっている左手で女の胸を揉むようにして動き、ちゅばっと音を立てて乳輪含めすべてが勇作の口のナカへと消え、咥内で吸ったり舌で舐められたりと優しい愛撫が続く。
 思わずふっと身体の力が抜けたその瞬間、がりがりっと前歯で乳首を噛まれ、強烈な痛みが尾形に襲い掛かってくる。
「いぐううっ!! い、い、いっ……痛っ!! 痛いっ!!」
 だが、責めはこれだけでは終わらず今度は犬歯で乳首を潰しにかかってきて、あまりの痛みに涙が目尻に溜まり、今にも零れそうになる。
 性感帯である敏感なソコをひどく責められるのはつらい。だが、この激痛を乗り越えた先には最高の快楽が待っている。
 痛ければ痛いほどに快感は強い。それが分かっているからこそ、快感に弱い尾形は勇作に懇願したのだ。噛んでくれと。
「はあっはあっ、うっく、痛いっ……!! ああああ痛いっ!!」
 勝手に背中が反り上がり、足でベッドを蹴って逃げ出そうとしてしまうが、まるでそれを許さないと言っているかの如く勇作と繋いだ手に力が籠められ、さらにきつくがりっと乳首が噛まれてしまう。
「ぎゃっ……! あぁっ……!!」
 食い千切られてしまう。そう思ってすうっと目尻に溜まった涙が重力に従ってこめかみを伝うと、そっと歯が外れていって、そのかわりにふわふわの舌がこれ以上なく優しくひどく痛む乳首を包み込むように舐めてくる。
「ひっ、ぐ……! い、いた、痛いっ……!! も、やだ、止めるっ……!! や、止めっ……!!」
 しかし、これからだと言わんばかりに今度は飴と鞭の飴が与えられ、元々柔らかくできている勇作の舌が、腫れ上がっているだろう乳首を柔らかく舐め始め、ただ優しく舐めるのではなく一旦乳首に舌を置き、舌全体で包み込むようにして舐められるため、存分に柔らかな感触を愉しめる。
 そのうちにやってくるのは極上の快楽だ。
 だんだんと痛みが引いていくと同時に、腰が震えるような快感が乳首から身体全体に拡がる。この瞬間が、たまらなく好きだと思う。
「は、あっ……! あああ、ああっああっ……!! うっあっ、き、気持ちいっ……!! あっあっ!! やっあっあっあっ!!」
「痛かったですね、今からはイイコイイコの時間です。兄様の好きな時間ですよ」
「はあっ、は、は、あっ……ゆ、さっくっ……!!」
 股間が苦しい。性的興奮をしこたま与えられたせいで勃起し過ぎて身体にぴったりと張り付く綿の黒いパンツが膨らみを邪魔している。
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