空を泳ぐ鯨 2.


 自然に息が上がってしまい、胸を激しく上下させて背を反らせると胃の辺りに口づけが落とされる。
「苦しい? 兄様、やっぱりきついですか? あの……でも、止めたくない。もっと兄様のことを知りたい。続けても、いいですか」
「ん、はあっは、はあっはあっ……いいに、決まっているでしょう……!! いま止めたら怒りますよ。もう寝ない。抱かせてやらない。覚悟はどうしました、覚悟はッ! もう、気持ちイイのに……」
 尾形がそう言って渇を入れると、また指の動きが再開され解すようにといった表現が正しいかのように、アナルにクリームを塗りたくってくる。
 優しく丁寧に指が動くことで、あっという間にアナルが緩まってくるのが分かる。そうなってくると、じんじんとした快感のようなものが下半身に拡がってくる。
 微量な快感だが、今の尾形には充分過ぎる快楽でつい呻くように啼いてしまう。
「あっ、あー……!! あああああああー……!!」
 勝手に背が反り上がってしまう。どうしていいか分からなくて、そのまま荒く息を吐いていると、とうとうアナルに指先がぷつっと音を立てて挿れられ、それでも一気に挿れるのではなく、じっくりと時間をかけて緩くピストンを繰り返しながら奥へと入り込んでくる。
「はあっ、ああっはあっ、ああああっ……!! あっあっ、あああああああっ……!! い、イイッ……気持ちいっ気持ちいっ!! あっあっ!!」
 指の動きは非常にゆっくりで、尾形の身体を考えてのこの丁寧な挿入に胸が熱くなる。そこそこにいろいろな男と寝てきたが、こんなに丁寧に解してくれる男には出会ったことが無い。
 それほどまでに勇作は優しく、尾形の心までもを解すかのように指を使ってくる。また、身体の感度が増した気がする。
 気持ちと身体は繋がっていると、こういう時に実感する。
 指はかなりの時間をかけて根元まで埋め込まれ、勇作が「ふうっ」と安堵とも呼べる吐息をついたのが分かった。
「兄様、指が一本入りました。大丈夫ですか? 痛くはない?」
 それは多少の異物感はあるが、我慢できない程ではないし何より気を遣ってもらっての挿入だ。痛いはずがない。
 尾形は薄っすらと笑い首を横に振った。
「だい、じょうぶ……も、今でも気持ちイイから……早くいろいろ欲しい」
 そうやって強請ってみると、急に勇作が男くさい表情を浮かべ、指のピストンを始めた。
 じんじんするほどの快感がアナルから下半身へ流れてきて、全身に拡がる。その様がまた気持ちよく、ゆっくりとしたピストンは徐々に速さを増し、そこでかなりアナルが解れてきたことを知る。
 自分でも分かる。尻の孔が緩んできていることが指の動きで分かる。
 そのうちに指が二本に増やされたが痛みを感じることはなく、ただただひたすらに勇作は快感だけを尾形にぶつけてくる。
 ゆっくりと続けられるピストンは尾形の官能をいやというほどに引き出し、肩と胸を上下させて襲い来る快感に耐えていると、ふと違和感を覚えた。
 勇作の指が、何かを探っているような、そんな動きを見せたのだ。確かに男には前立腺を刺激するとそこだけでイけるようになるほど気持ちイイ器官があるが、まさか勇作はソコを探っているのではないか。
 他の男からでは考えられなかったことだ。勇作以外の男ときたら、おざなりな愛撫にアナルもロクに解さずハイ挿入、揺さぶって終わりというセックスしか体験してこなかった尾形にとってこれはかなりのカルチャーショックだ。
「ま、待っ……ゆ、勇作殿ッ!! まさか、Gスポット探してる……?」
「G……? よく分かりませんが、前立腺の在処を探ってはいます。ここを触って気持ちよくしてあげないと受け身の男の人は愉しくないと本に書いてありましたから。やっぱり、兄様には気持ちよくなってもらわないと。でしょう? だから、少し気持ち悪いかもしれないけれど我慢してください。すぐに良くしてみせます」
 宣言と同時に、指が胎側に折り曲げられ、しきりにナカを探られてしまい気持ちはイイが、どう反応していいか分からなくなり、黙って腰を跳ねさせているとある一点を指がざりっと擦り、あまりの快感に腰がビッグンと大きく跳ね上がってしまい「ああああああ!!」と声が出る。
「あ、分かった。兄様のイイトコロ……ココ、でしょう。このしこった塊か……ここを、優しく撫でる」
 ゆっくりと指の腹が前立腺、所謂Gスポットを撫でてきてあまりの快感に腰が跳ねたり足が跳ねたり、身体が捩れたりともはや訳が分からない。
 意味不明の快感は、確実に尾形を襲いつつありすっかりとGスポットで感じる快感に溺れてしまう。
「やあああああっ!! あああっ、あああううううううイック、イック、イック、イックううううっ!! ああああ気持ちイイイイイイッ!! ああっああっ、だめ、だめあああっ!! ああああああああ!!」
 勝手にイクという単語がのどから漏れてしまい、自分がイキたがっているのがそこで分かるが、分かっただけに終わり、さらなるGスポットへの責めが始まる。
 指で振動をかけられるのもキくし、ただ撫でられるだけでも充分に快感を感じることができる。何しろ、Gスポットをいじるのは初めてだろうと思われるのだが、やたらと指使いが上手いのだ。時折、やはり痛いと思う時はあれどそれも快感に変わり、尾形を確実に追い詰めてくる。
 そのうちに指で前立腺を挟んで小刻みに揺らされたりもして、これがやたらと感じてしまう。つまり、イキたくなってしまうのだ。
 つい、制止とも取れる言葉が漏れる。
「や、あっあっあっあっあっ、い、やだ、ソレッ……!! か、感じる、感じるッ!! や、だっ!!」
「んー? 感じるからヤるのでしょう。私は敢えて、陰茎には手を出しませんよ。兄様には、ココだけでイってもらいます。イけますよね、そんなに感じてしまって……顔がトロトロですよ。トロットロに蕩けてます。かわいい」
「やああっ……!!」
 といいうことはナカイキさせられるということだ。ある意味トコロテンと言わないでもないが、とにかくそれでイかないことには先へは進まないということになる。
 しかしこのまま責めていてくれればイクことは簡単に思える。今だっていっぱいいっぱいなのだ。ならば上等だと、逆手にシーツを握りナカを探る指の感触を充分に愉しむことにさせてもらう。
 そうすれば、自然とイけるはず。
 指の動きはさらに苛烈を増し、しこった塊を撫でる指は高速を極め、コールドクリームがいい潤滑液となっているらしく、痛みも無ければただただあるのは果てしない快楽のみ。
 思わず大きな喘ぎ声が出てしまう。
「うああああっ!! あああああっ、あああうううううイック、イック、イック、イックううううっ!! だめっ、やだ気持ちいっ、気持ちいっ!! だめ、だめホントに、ホントにっ……ああああイック!!」
「止めませんよ、イってください。兄様のかわいいイった顔、見たいです。たくさん見たい。もっと見たい。たまらなく見たい。見せてください、兄様がイった様子がどうしても見たい」
「こ、の、変態……!! そんなもの見たってっ、あっあっああああ!! やっ、あっ、だから指ッ!! うああああああああ気持ちイイイイイイイイッ!! だめああああああああ!!」
 思わず硬く目を瞑って襲い掛かってくる射精感と戦っていると、随分とご機嫌な勇作の声が遠くから聞こえる。
「かわいい子は、いじめたくなるって本当だったんですね。意地悪したい、兄様に。たくさんいじわるして、かわいくイってもらいたい」
「ヒッ……!!」
 その声色で勇作の本気が窺えるようだ。ご機嫌の中にもずっしりと欲情が含まれていて、聞いているだけで感じてしまう。
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