空を泳ぐ鯨 2.


 こんなに官能的な口づけなど、経験がない。
 だからこそここまで夢中になってしまうのか、とにかく気持ちが良くてたまらなく、つい背に爪を立ててしまうと勇作が身を捩らせた。痛かったか。だが、そんなことは関係ない。
 痛みも快楽として受け取れるくらいには、熱中してもらわないと気が済まないのはこちらも同じだ。
 さらに爪を立てると、今度はお返しとばかりに舌をきつく噛まれ、思わず顔を歪めるが勇作はしてやったりの舌使いで噛んだところを柔らかい舌でふわふわと舐めてくる。
 これが何だかひどく愉しく、何度も背中を引っ掻いてやると同じように舌を噛まれ、舐めてはまた噛んでといった繰り返しをしていたら自然と笑いが込み上げてきて、それは勇作も同じらしい。
 二人でくすくすと笑い、とうとう声に出して笑い始めたら止まらなくなり、抱き合いながら大声を出して笑った。
 笑いを声に出すだなんて、何十年ぶりだ。フランクと住んでいた頃でもそんなに無かったことが、こんなに簡単に叶えられてしまうなんて驚きだ。
 そのうちに何故だか訳の分からない涙が込み上げてきて、泣きながら笑っているとどうやら尾形の異変に気付いたらしい勇作が戸惑いの表情を浮かべ始まるが構わず、そのまま笑っているとそのうちに笑い声は嗚咽に変わり、額に手を当ててしゃっくり上げると間髪入れず勇作が抱き締めてくれる。
「……兄様。泣いてはだめです、なんて私は言いませんよ。泣きたかったら泣いてください。兄様の涙の意味は分かりませんが……私の胸ならいつでも貸します。だから、泣きたくなったらここへ来てください。兄様のための場所です、ここは。あなただけの、特別に作ってある場所。ここでなら、兄様も淋しくなく泣けるでしょう……?」
「うっうっ、ひっ……勇作ッ……!!」
 ひしっと勇作の背に手を回し抱きつき、何度もしゃっくり上げる。
 この涙の意味はなんだろうか。
 次から次へ溢れて止まらない。こんなことは初めてで、誰の前でも涙など流さなかった自分が一体、どうなってしまったのか。
 動揺と、動転、不安と困惑が綯い交ぜになり、ますます涙は止まることなく溢れてくるばかりだ。
 必死になってしゃっくり上げ続けていると、勇作が優しくぽんぽんと背を叩いてくれ、さらさらと撫でてくる。
「兄様は……とても、頑張っていたんですね。でも、もうそんなに頑張ることない。もう頑張らなくていいです。これからは私が傍に居る。兄様の傍に居て、癒しになる。兄様を癒せるような男になる。だから、もうそんなに泣かないでください。私まで悲しくなってしまう。ね?」
「ゆ、ゆう、ゆうさくっ……!!」
 勇作からもらう言葉の端の一つ一つに、優しさが籠められているのが分かる。これが、一番自分の欲していたモノじゃないか。そう気づいたのは散々泣きじゃくってから思いついたことで、漸くここで独りだけの旅が終わったことが分かった。
 これからは、勇作が共に生きてくれる。例えこの先、殺し屋という仕事がバレても構わない。勇作と共に居たい。幸せを分かち合って生きていきたい。
 二人で生きる術というものを、探して未来へ行きたい。未来が、あるのならの話だが。鶴見はそんなに優しくはない。甘くもない。蜜月はどうせすぐに消されるのだろうが、それでもいい。二人ぼっちで居られる時間をできるだけ長く、長く長く。
 ぎゅううっと力を籠めて勇作に抱きつくと、同じくらいの力で抱き返される。それがひどく嬉しくて、息を荒くしながらさらに抱きつくと、また同じほどの力で抱いてくる。
 漸く見つけた、生き甲斐。
「……は、はあっ、ん、勇作殿……早く抱かれたい」
「あにさま……あの、今さらですが本当にいいのですか? 私がその……兄様もアナル開いても。挿れてしまっても、兄様は兄様のままでいてくれますか」
 妙な問いかけだと思う。
 抱かれたら距離はもっと縮まるのではないか。勇作が何を指しているのかが分からず、思わず無言になるとそっと勇作が身体を離してきて、至近距離にまで顔を近づけてじっと見つめてくる。
 相変わらず、きれいな造りの顔だ。いつまでも見ていたい顔とでもいうのか、とにかく魅力に溢れていることに間違いはない。
 涙が止まるほどにじっと尾形も見つめると、眼の前の顔がふんわりと笑み、あまりの美しさに思わず見惚れてしまうと、今度は照れくさそうに笑った。
「兄様、かわいいですね。やっぱり……かわいい。もっと勃ってきてしまいそう……私のコレ、挿れていい? 兄様のナカに入りたい。一緒に気持ち良くなってしまいたい、そう思っています。兄様は違う?」
「……違わない。俺も早く挿れて欲しい。アナル……勇作殿に任せてもいいですか。好きにされたい。勇作殿の、好きにしてください。もう抵抗はしません。俺を……勇作殿の好きにしてみて」
 最後の言葉は囁くようにして吐息の触れ合う位置でそう言うと、一気に勇作の顔が真っ赤に染まり、唇が戦慄くのが見えた。
 後、ごぐっと大きくのどが鳴り、勇作がとうとうソノ気になったのが分かった。欲しいものがもらえる。
 尾形はそのままじっと勇作を見つめていると、肩に手が掛けられゆっくりと押し倒されていく。それを、成すがままにされているとふさっと身体がベッドに沈み、腰の下あたりに枕が突っ込まれ、羞恥のあまり足を閉じようとするが許されず、両脚に手が置かれゆっくりと割り開かれていく。
 そして、陰部がすべて丸見えになったであろうそれが非常に恥ずかしく、顔だけを横に向けて眼だけで勇作を見ると、勇作の眼は股間辺りに集中していて、口を開けて頬を真っ赤に染めている。
「わ、兄様のココすごい、キレーな色……アナル、きれい。あれ、ムダ毛が一本も無い」
「やっ……そ、そんなに見ないでください。見たって、何もないでしょう」
「興奮させてください。好きな人のやらしいところを見たいのは誰でも同じでしょう? 兄様は、私の想い人なんですから当たり前です。もっと見たいし、触りたい」
「ん……触って……いいんですよ、たくさん触って欲しい、勇作殿に開いて欲しい。早くっ……!」
 そう言って腰を揺らすと、復活を遂げているペニスがゆらゆらとカウパー液を垂らしながら揺れる。
「兄様、足……開いていてくださいね。乱暴したくないし、私も相当興奮しているから……なるべく、優しくします。では、解しますね」
 尾形は従順に足をがばっと開き、羞恥を蹴って何もかもを晒すと勇作も覚悟ができたのか、アメニティであろうコールドクリームの入っている袋を口と手で開けて中身を手に捻り出している。
 漸く欲しいものがもらえる。
 うずうずとしながらさらに腰を揺らすと、膝小僧にちゅっとキスが落とされ、股座に勇作の手が入り込んで、クリーム塗れの指でつんっとアナルを突かれた。
 あんまりに急だったため身体が勝手にビグンッと跳ねてしまい、一瞬勇作の動きが止まるがすぐに再開され、ぬるついた硬い指先がアナルのシワの一本一本までもを伸ばすように動き始める。
 敏感になった身体にとって、この刺激でさえも嬉しい。
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