Prolog
咄嗟にお兄ちゃんと葵さんが前に出る。
葵さんがお兄ちゃんに黒く鈍い光を放つ銃を投げ渡しながら、自分も入口に向かって構える。
息の詰まるような空気が部屋を蔓延させる中、ソレは現れた。
長い髪。程よく焼けた肌。
光一さんと同じ色に染められた髪。
「
現れたのは、見覚えのある顔だった。
光一さんの妹の琴音さん。
彼女はお兄ちゃんたちの大学の学園祭の時に少し顔合わせをしたときと、私の家に遊びに来た光一さんが見せてくれた写真で見たことがあった。
妖でないことがわかると、心臓が破裂しそうな緊張が和らぐ
ーーーわけもない。
「琴音…お前、よく生きてたな……!!よか…「光一、近づくな」
最愛の家族に駆け寄ろうとした光一さんの肩を勢いよく掴み、静かな声を響かせるお兄ちゃんと依然銃口を彼女にむける葵さん。
「頭喰われて生きてる人間なんているわけないだろ!!」
必死に止めようとして、普段荒げることのない声を荒げる。
そう。
光一さんの妹は、光一さんが家に帰った時には既に死んでいたのだ。
ーーー首から上が、食いちぎられたような状態で。
その時の様子を私は見ていないけれど、お兄ちゃんがその場に居合わせたのだそうだ。
「け、けどさ、頭がなかったんだぜ?
同じ服着てただけの別人が、たまたま俺の家で死んでたかもしれないだろ!?
じゃなきゃ目の前の琴音はなんなんだよ!!」
逃げるように、縋るように部屋を響く光一さんの声が遠くに聞こえる。
[あやかしは、奏たちとおんなじすがたをしてることもあるからどこにいってもおなじだよ]
[ぱぱもね、あやかしだったの]
手元にある紙を見る。
心臓が熱くなる。
彼女が妖であることなんて、誰しも本当は分かっていることなのだ。
だって普通の女の子が地下シェルターの扉を
素手でこじあけることなんてできないんだから。
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