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Prolog


私が話を振るより先に、奏ちゃんはなにかを書き始めていた。


書き終わるなりトコトコとこちらにやってきて、服の裾を後ろからつままれたら気づかないほどのか弱い力で握られる。


「ん?」

それを合図に私は目線を合わせるためにしゃがみこんで、奏ちゃんのもつメッセージに視線をうつす。


[あやかしは、奏たちとおんなじすがたをしてることもあるからどこにいってもおなじだよ]


年の割にしては綺麗で、だけど幼さを残す字。


普段は必死にコミュニケーションを取ろうとしていることが微笑ましかったけど今回はその内容に一瞬思考が停止した。


「奏ちゃんや、私達の姿をする妖…?」


[ぱぱもね、あやかしだったの]


思わず聞き返したその内容に、また私の理解出来うる範囲を超えた応えが返ってくる。


奏ちゃんは嘘をつくような子じゃないし、悪戯いたずらをしたりその場を混乱させるような事を話したりする子でもない。


「……ねぇ、お兄ちゃん。これって…」



思わずお兄ちゃんにメモの内容を見せる。


お兄ちゃんのあまり変わらない表情が、小さく見開かれた瞳によって驚きの色をうつす。

けれどすぐにいつもの表情に戻ると、低い声で告げた。


「…俺達人間の姿をした妖がいる、という事だろうな」


その結論を告げるのと、奏ちゃんが次のメモを差し出してくれたのはほぼ同じタイミング。


[ぱぱがままを食べたの。
ままがね、ごはんをぱぱに作ってあげたの。
だけどパパが食べたの、ままだったの]


私とお兄ちゃんの様子を見てただ事じゃない空気を察したのか、光一さんはメモ帳に目を通し同じように目を見開く。


幼いその字が表すソレの意味を理解したくなくて、全身の血の気が引く。


妖はいつだって、異形の姿をしていた。

私が見た中ではたとえ人型であろうと首がもげていたり、皮膚がただれていたり体の一部が無かったり穴が空いていたり。

綺麗な人の形をしてるものなんて遭遇をしたことが無い。



ーーーーーーーーーキィィ



張り詰めた空気で充満する部屋に響いたのは

扉が開く音だった。
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