Prolog
お兄ちゃんに目配せをする。
私の視線を受けると、今まで黙って話を聞いていたお兄ちゃんが口を開いた。
「転居場所は決めています。ですが安全に移動できる保証はありません。
…それでも、ここに居続ける方がずっと危険だと判断しました」
歳上に対してでも全く動じたりなんてしないではっきりと自分の意見をお兄ちゃんは告げた。
お兄ちゃんの言う事はいつだって間違っていない。
それは葵さんも分かっていた。
とはいっても簡単に納得できる件でもない。
葵さんがまだ何か言いたそうにした所で、光一さんが口を挟んだ。
「俺も陽成の意見に賛成だ。
…そりゃ勿論怖ぇけど……」
歯切れが悪そうに言葉を繋げる。
光一さんの担当は、周りとの情報共有、及び周りからの情報収集。
フットワークの軽い光一さんは、ほかの生存者にも知り合いが多かった。
その人望を生かしてもらって、この近辺で知っている人物達との連絡係を担当してもらっていた。
「一ヶ月前に、俺らを含めてここの周辺で生き残った組は八組。
……二週間前の時点で七。先週には五。
そして今日で…一組。つまり……俺達のグループ以外全滅だ」
普段の軽い口調とは別人のような重みのある口調で言い切られてしまったその言葉に、またも場は暗くなる。
最初から約二週間では一組しか減っていないにも関わらず、おおよそ同じだけの期間で激減。
明らかに他のグループの行う対応が無意味となっている証明だった。
「私は天音と光希のいる所ならどこでもいい」
「私は空音と光希のいる所ならどこでもいい」
張り詰める重苦しい沈黙を破ったのは、空音ちゃんと天音ちゃん。
緊張した様子など感じさせることはなく、存外あっさりと言い放ったその冷静さが、演技かどうかは分からなかったけど前向きな返事が有難い事には変わりない。
「空音ちゃん、天音ちゃん。私は移動する。
…ついてきてくれる?」
「「うん、分かった」」
私の問いかけに迷う素振りは一切なく2人は返事をくれた。