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Prolog

「奏ちゃん。ただいま」


一通りの団欒を終えたところで、私は隅っこに座る幼い子に話しかける。


萩原 奏はぎわら かなで


この子は私とお兄ちゃんが食料を調達していた時に見つけた子。



出会った時からこの子とお喋りをしたことが無い。


路地裏の端っこで傷だらけの素足を隠すようにしているのを見つけてお兄ちゃんとの話し合いの結果保護することにした。


見つけた時の様子から、お兄ちゃんは事件のショックで声が出ないのではと話していた。


お喋りは出来なくても筆談でコミュニケーションはとれるしあまり不便もしてない。


実際、名前や年齢は書いてもらって教えて貰えたし不便はない。


聞いたところまだ十歳ということで、そんな歳の子があの事件に巻き込まれたのだから仕方がないとも言えた。



そしてそこで、私は部屋に全員が揃っていることを確認して先程の案を言うため口を開く。


「あのね、皆。…今日は大事な提案があるの」


奏ちゃんの頭を撫でて、薄暗い部屋を見渡す。


「拠点を移動しようと思うの」

元々そんなにがやがやしていた訳では無いけれど、私の言葉で全員が黙る。


何を思っているのか。それは何となく分かっている。


「……拠点の移動?」


沈黙を割くようにして話したのはグループ最後の一人。


ひいらぎ あおいさん。



私達のグループの最年長の28歳。

歳もあってか普段から落ち着いた素振りを見せる男性で、第2のまとめ役。


柔らかな物腰と焦げ茶色のふわふわとした猫っ毛に、眼鏡越しのタレ目が相まって人の良さが雰囲気に出てる。



「はい。最近、妖達の姿形が変わってきています。
……なので、ここに居続けるのは危険だとお兄ちゃんが判断しました」


「…まあ、それは僕も薄々勘づいていたことだけれど…

拠点を移動したとして、その移動先にアテはあるの?
それと、移動するルートはきちんと安全なルートなのかい?」



さすが最年長なだけあって、きっとこの場にいた他の四人が思っていたであろうことを代表して聞いてくる。
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