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第2章 息子達


 一時間程訓練を続け、しばらくの休憩を挟んでからモンスターの捕獲に向かうことにした。
 何度か打ち合うことを繰り返し、息子達の力量――特にグリアスが主だが――は把握出来た。武器を使用しての技量だけでなく、咄嗟の判断力や魔力のコントロールも全てだ。
 その全てにおいて年下のグリアスに息子が劣っていた。唯一、単純な運動能力だけなら勝っていたが、それは体格の違いのためだろう。だがそれは仕方がないことだ。
 魔族やエルフといった種族は、先天的な魔力の量によって身体能力にも影響が出てしまう。両親共に軍人だったグリアスは、その才にとても恵まれていただけだ。
 もちろん息子も生まれはかなりのものになるはずだが、こればかりはどう遺伝するかもわからない。
 元より息子にはルツィアのためにも、あまり戦闘への適正はない方がありがたいとも言える。戦いに一番傷付いているのは彼女だ。息子にはその支えになってもらいたい。
 遠くない未来に争いのない世界を作る。そのために我らが魔王は尽力している。
「身体を痛めたりはしていないか?」
 寄り掛かっていた壁から離れ、地面にそのまま座り込んでいた息子達にそう声を掛ける。充分手加減はしていたが、受け身の取り方等に問題があれば当然怪我にも繋がってしまう。
「これくらい大丈夫だよ。ボク達、ずっと手抜きされてたみたいだしね」
「結局一撃も当てられなかった! くそー」
 頬を膨らませるグリアスに、心底悔しがる息子。大丈夫そうだ。身体もほぐれて調子も良さそうなのが、表情を見ているだけでもわかる。
 続けて出発と伝えようとしたところで、教会の扉が開く音が聞こえた。明るい表情のルツィアが顔を出す。
「少し早めのお昼ごはんの用意が出来たわよ。軽く食べていきなさい」
 香ばしいパンの香りに少年達の顔が綻ぶのを視界に捉え、やれやれと肩を竦めてやった。




 軽い昼食を終え、ようやく街の外へと繰り出した時には昼をまわっていた。
 明るい日差しに照らされた街道は、よく整備されており見通しも良好。遠くに枯れた森のような影が見える以外に障害物は何もなく、乾いた大地が永遠と続いている。
 ルツィア曰く、その鳥型のモンスターである「シエル」は天から突然降りてくるという。
 光を撒き散らしながら、遥か上空、雲の隙間から突如飛来するその姿は、天界からの一撃そのもの。渡り鳥のような習性を持つ奴らは、一定の周期でこの街の上空に飛来するらしい。
 猛々しい神への献上品として、これ以上適任もいないだろう。ルツィア一人では捕獲は困難だっただろうが、自分が出るのであれば問題はない。だからこそ彼女も、息子達の同伴を許したのだ。
「オレ、街の外に出るのなんて初めてだ!」
「ボクも!」
 初めて見る外の景色に、少年達は歓声を上げる。ルツィアも同じタイミングで教会を出たが、どうやら長への連絡の方が先についたようで、街の外への通行はすんなり許可が出た。
 一度街から出てしまえばそこは、野生モンスター達の縄張り。整備された街道では確率は低いが、それでも危険が全くないかというとそうでもない。
 既に目標とするシエルは、肉眼で確認出来る距離の上空を飛翔している。そのことに息子達はまだ気付いていないようだった。石造りの街道に沿うように少し歩きながら、出来るだけ平坦な広い場所を目指す。
「ピクニックに来たんじゃないんだ。敵は既に上空を旋回しているぞ」
 慌てず騒がず、息子達の注意を上空に向けてやる。足元の心配はしなくて良いようにしてやらないとな。
「あれがシエル!」
「すごーい! 本当に大きな白い鳥なんだね」
 初めての外ということは、おそらくモンスターとの戦闘も初めての経験だろうか。
 守りの堅牢な街に攻め入るようなモンスターは限られており、このシエルは街道での被害が多くみられる、わりとポピュラーなモンスターである。要するに手強い敵ではない。
「群れから離れて単独だな。これなら問題はない。お前達がやってみろ」
 普段は数十羽の群れで、まるで天空に浮かぶ球体のように集まって移動するシエルだが、狩りの時には単独行動をすることが知られている。数の力に頼らない故に危険度が下がっているとも取れる。
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