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第2章 息子達


 もう見慣れた大きな背中に目が釘付けになった。お馴染みになった教会の空き地。
 朝の日差しに照らされ、鋭い槍の先端がぎらりと光る。確実に命を奪う動きに合わせ、その先端が、その逞しい腕が、流れるように振るわれる。
 風を切る音がこれ程心地良いなんて。自分の訓練がいかに真似事だったかをまた実感する。
 月明かりに照らされた時にはあまりに幻想的だったそれが、はっきりとした日差しの下では――おそらく少し慣れたのもあるだろう――より明確に感じ取れた。
 呼吸と身体が完全にマッチした、武人の動きだ。動きだけでなく、その身体にも一切の無駄がない。高い目線から放たれる眼光が、うっすらと浮かぶ汗が、グロッザの胸を熱くさせる。
 息をするのも忘れ見入っていると、隣で小さな手が繋がれた。
 朝食の席ではグリアスは平静を装っていた。そのおかげで母親の前で醜態を晒すようなことにならずには済んだ。どうやらちゃんと場面は選んでいるようだ。なんでゼトアの前なら良いんだよ?
「魔将ゼトア……人間達の噂通りだね。凄い迫力」
「軍の幹部だもんな。他の魔将もこんな奴らばっかなのか?」
「ボク、小さい頃にお母さんから聞いたけど、皆、遠目からでもわかるくらい強い魔力を放っていたって」
「こんなのが魔王を合わせてまだ何人もいるのかよ……」
 スケールの大きい話に思わず溜め息をついてしまった。
 今では魔族に対する偏見もかなり薄まったが、これでは敵対する人間達に同情してしまう。小さな温もりから暖かい流れを感じる。
「ボクだって、凄いんだからね」
 隣でグリアスが愛らしく微笑んだ。そう言えば、彼も魔法を使えるはずだ。
「ただ見ているだけではつまらないだろう?」
 槍を片手に持ちながら、ゼトアが声を掛けてきた。
「昼から街の外に出てモンスターを狩りに行く。その前に準備運動も兼ねて戦闘訓練を行う。グリアス、お前もついでに見てやる」
「ボク、戦闘の仕方なんて習ったことないよ?」
「お前の魔力のコントロールは本物だ。闇に囚われない限りは調整も出来ている。多少暴発しても俺が抑えてやれる」
 槍を教会の壁に立て掛け、「さっさと来い」とゼトアは言ったが、その姿は完全に無防備だ。
 獲物も持たず、構えることすらしないゼトアに、武器――今日こそ出番がありそうな双剣を持ったグロッザと、魔力を具現化する効果のある腕輪を装備したグリアスが対峙する。グリアスの腕輪は先程ルツィアが昔使っていたものを渡したものなので、その腕には少し大きい。
「何してる?」
「いや、だって……オレ達、武器持ってるのに……」
「まさか、俺が素手ではお前達に負けるとでも?」
 心底驚いたという顔をしたゼトアに、グロッザより先に隣のグリアスが動いた。
 あれはわざとそういう顔をしたんだ。完全に挑発されていた。
 グリアスはやや離れた間合いから走り込みながら、素早く魔法の詠唱を完了する。
 少年が生み出したとは思えない量の水柱が地面から噴き出し、のたうち回りながらゼトアに向かっていく。土中の水分を利用しているのか、とにかく魔力の量が並みではない。
 それをゼトアは掌底の一撃で掻き消した。中心となっている魔力を水分諸とも吹き飛ばし、そのまま接近戦を仕掛けたグリアスをいなしていく。
 グリアスは先程貰ったばかりの腕輪からブレード状の魔力を放出しながら、それを上手く回転させ切りつけている。魔法の発動だけでなく、動きも早い。
――戦闘の仕方なんて習っていない? 嘘つけ!!
「なかなか良い踏み込みだ」
 ゼトアも満足げな笑みを浮かべている。
「オレだって……っ! 忘れてくれるなよ!!」
 地面を勢いよく蹴りだし、グロッザはグリアスを弾き返したゼトアへと切りかかる。振り下ろすその剣に、心の中のモヤモヤも全て打ち消して欲しいと、そんなことばかり考えていた。
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