実況者×実況者~初めてのコラボ配信で俺は耳から犯される~
画面に流れるコメントに歓迎されながら、彼がいつものように配信開始の挨拶をする。そんな彼に俺も、“いつも通り”を装って返しながら、配信は進んでいく。
こちらを向いて笑うふりをしながら、ヘッドセット越しにキスを落とされ、画面外の彼の手が、俺の太ももをなぞる。ゾクゾクとした快感が走る度に俺は少し俯き、せめてその表情をカメラから隠すことに、必死になることしか出来なかった。
さすがにこれ以上やったら俺が怒ると思ったのか、ロード時間とかそういう数秒手が空く時は、コントローラーなんて放り出して、ずっと強く抱き締められていた。
彼の行動、その全てが愛しくて、それでいて、悪戯好きな彼に心が乱される。赤面する顔は止められそうにない。
それなりに慣れたダンジョンを流しながら、動画上では質問コーナーに入った。
これは視聴者から送られてきたダイレクトメールに答えていく企画だ。けっこういかがわしい内容や、個人を特定される質問が多く、それらを省くとかなり数は少なくなってしまったのが悲しい。
「それでは質問コーナーいきまーす。えーと、名前の由来ね。オレは好きな車の名前からやけど、サクは?」
彼が明るい口調で聞いてくる。今はキャラクターの移動だけだから、お暇な右手は俺の指に絡ませてきている。凄い名演技。本当にやらしい。最高の恋人。
「俺は好きなキャラからとった」
さすがに全世界に向けての配信で、本名からなんて言えないから嘘をついた。まぁ、好きなキャラなのも本当だけど。
「なるほどなぁ。じゃ次、彼女はいますか? せーの」
「「いませーん」」
彼のやりたいことなんてすぐわかる。それに多分『恋人』って聞かれてたら、答えは変わってたかも。
『わかりきっていたさ』『ほm……いやなんでもない』『イケメンの無駄遣い』
本当、たまに笑えないコメントが流れる。
「えーと次は……おっと、ボス戦やから続きはまた今度で。サク、やんでー」
「うん。雷属性弱点だから、俺の魔法主軸で」
「前衛は任せろ。このボス、オレのお気に入りー」
そう言いながら彼はさっさと、ボスのフィールドへと侵入していく。一人が入ってしまえば画面は、ボス戦へと強制的に移動する。ロードが長いのがもったいないところだ。
「こいつ確かに見た目かっこいいけど、好きだったっけ?」
ロード画面を見詰めながら、彼に聞いてみた。このダンジョンはもう何度もクリアしているし、このボスも何度も倒している。でもそんな話は聞いたことがなかった。
全部教えて。考えてること全部、俺に。俺だけに。画面外で繋がれた手からは、こんなにも愛おしい気持ちが伝わってくるのに。俺は我が儘なのかな。
「こいつの演出凄く良くない? かっこいいし……それに、長いから」
彼の声に甘さが混ざる。俺だけに向けられたその音色は、刺激を伴って俺の耳を犯す。
ロード画面からボスの登場シーンに画面が移る。彼が言うようにこのボスの演出はかなり長めだ。登場シーンもそうだし、撃破後の演出も。
『相変わらず飛ばせないとかウザい』『かっこいい』『エアプなので助かります』
彼の抱擁はまだ続いている。カメラの下では強く強く抱き締められて、お互いに求め合う姿を晒すようなことはしない。本当の彼は俺だけのものだから。
彼の手から離れていたコントローラーがガタガタと振動した。演出の効果で揺れたそれが、振動によってテーブルから落ちそうになる。
彼はさっさとコントローラーに手を伸ばし、何事もなかったかのように握り直す。
『コントローラーwwww』『手放すなうるさい』『何してんだよwww』
「おっと、悪い悪い。じゃぁ、ボス戦ちゃっちゃと終わらせますかぁ」
彼はニヤニヤ笑ったが、俺はもう顔が熱いのなんのって。
『サクちゃんびっくりしてるwww』『可愛い』『エイトが何かイラナイことしたの希望(腐女子通ります』
「び、びっくりなんかしてねーから」
上擦った声出しちゃった。コメント……ダメだ、絶対見たくない。それに……耳の中、もっとダメ。彼の喉の奥で笑うあの声が、あの音色が……脳に直接流れてくる。
画面の中でボスが倒れた。いつの間にか倒していたようで、すぐに撃破の演出に画面が切り替わる。もうこれでダンジョンはクリア。複雑な操作はこれで終了。
これで配信は終了予定だ。なんとか無事に終わりそうで、俺もほっとする。
彼も少し力を抜いたようで、だらりと俺の膝の上に手を置いている。コントローラーは握ったままで。
「……ンっ」
急に強烈な振動が太ももを襲う。ボスの爆発に合わせた振動が、彼のコントローラーから響いてきたのだ。完全に油断していたから、変な声が出た。
「ご、ごめ……」
顔から火が出そうになりながら、やっとのことで小さく謝る。だけど、彼からの返事はない。その沈黙が怖くて、恐る恐る彼を見やる。
「……エイト?」
彼の強い視線に捕まる。あ、これもう……
「……データはサーバー上げてるから大丈夫や。それよりもう、我慢出来ん……」
彼は足元に這わせていた配線を一気に蹴り飛ばした。その衝撃でコンセントが引っこ抜ける。一気に配信中のゲーム画面とカメラの電源が落ち、エラーによって配信の終了したパソコン画面と、俺のゲーム画面だけが煌々と光を放つのみ。
強引にソファに押し倒されて、ヘッドセットを引き剥がされる。ずるりと外されたその音にすら、官能的な刺激を感じてしまう。まるで服を脱がされているような、俺にとってはそれくらいの行為。
「サク……もう配信は終わりやから、今からオレだけのためにその声出して」
耳に落とされる優しいキス。甘い甘いその感触に、俺もなんとか応えたくて、彼の背中に手を回す。彼のヘッドセットを外して、お返しのキスを彼の耳に返す。ピアスの穴……クールでセクシー。
彼のための言葉もいっぱい。そのひとつひとつを、今夜は俺の声で伝えていくんだ。彼のためだけに、俺の声で。好きを、愛しさを伝えていく。
しばらく見詰め合い、口づけを交わす。耳だけで繋がっていた俺達。やっと触れ合う、愛を交わす器官。
これから彼専用がたくさん増えていくんだろうな。そう考えると余計に愛しくなって、彼を強く抱き締める。
「そうや、名前教えてや」
「そうだった。俺、佐久屋 良って名前」
「だからサクか……良、好きやで。ずっと声聞かせてや」
「うん。俺も好き」
もう一度重なる唇に、ずっと一緒だと返事を込めながら。
END