闇夜に輝く月のように
結局銀一が何の仕事をしているのかわからないまま、彼は仕事に行ってしまった。
今日は土曜日なので、今日が出勤という情報だけではまだ、業界すら絞ることは出来ない。とりあえず、真っ当に仕事をしているならそれで良いかと考え直す。
「……今夜教えてくれるんやんな?」
何故今夜なのかはわからないが、とにかく彼は今夜、何かを見せてくれると約束してくれた。今はグズグズ考えるよりも、夜に向けて部屋の掃除を行うことにする。
元彼の私物がなくなった空間は、思っていたよりも広く感じて、それがそのまま心からの解放感だということに気付いてしまい、秋月は一人自嘲する。
――とっくに……ううん、最初からたいして愛されてへんかったことに、気付かんふりしてただけやったな……
初めて経験した愛のある行為に、秋月はいかにこれまでの自分が愛されていないかを悟った。それと同時に、自分自身もまた、相手への愛が本物ではなかったことも知った訳だが。
寝ている間、離れることのなかった身体。幸せ過ぎて、この時間がまるで夢なのではないかと不安に思い薄く目を開ける度に、その優しい手に頭を撫でられた。落とされるキスに身体が熱く震える。本能から、彼を求めている自覚があった。
「……好き」
気持ちを言葉にすることが、こんなにも愛おしいものだと知った。それも全て、銀一のおかげだ。
「よし! さっさと掃除して、晩御飯……食べてくれへんかな……」
お喋りが得意ではない自分のわりにはたくさん話せた昨夜を思い出し、しかしその中に彼の好物についての話題はなかったことに落胆する。料理は嫌いではないがそこまで凝ったものは作れない。好き嫌いや、ましてやアレルギーなんてあれば命にも関わるので、おいそれと挑戦的なものは作らない方が賢明だろう。
――カレーとか肉じゃがにしとこかな? 味付け……ちょっと濃いめにしてお肉も多めにして……うん、肉じゃがに味噌汁にしよ。
シンプルで手軽。それでいて味付けの違いがわかりやすい料理。これなら例え今回の味付けが駄目だったとしても、次にどうすれば良いかわかりやすい。
自然と彼との『次』を考えている自分に笑ってしまい、そして――味付けが悪いと怒られるようなことはないと安心している自分に驚いていた。
うん。きっと、銀一“は”そんな些細なことで怒ったりはしない。そう、信頼出来る人だから。
「うん……大好き」
昨夜も時間は掛かったが、一生懸命伝えた言葉を何度も一人で繰り返し呟く。そんな行為ですらも愛しく、秋月は幸せごと自身を抱き締め、そして掃除機に手を伸ばした。