季節物短編
この聖なる夜は、天界の神に対する記念日らしい。
あの強欲なる“自称”神を名乗る天界の王は、自身の産まれたその日を記念日と制定した。
地上の権力者と同じように制定したそれは、今では教会や信仰する者達からは揺るぎない指針となっている。
「聖なる日にはプレゼントが貰えるらしいな?」
魔王アレスは呟いた。魔王の私室にて、大きな窓にもたれ掛かりながら。ユニアセレスの首都、フェズジーク城から見下ろす町並みは、ことのほか穏やかと言える。
魔王の声に答える者は今はいない。この私室に入れる者は自分の他には一人しかいなく、その一人は遠く天使の討伐に向かっているからだ。
聖なる、神を祝う日に、その使いを討つという。皮肉の利いた話だが、それは彼が決めた運命ではない。
薄っすらと、視えた。
アレスは静かに窓から身体を離す。
閃光が一閃。
アレスが先程もたれていた窓の傍に一本の槍が突き刺さっていた。純粋なる白き槍は、紛れもなく神からの意思。天界の武器である。
その次の瞬間には強い光が放たれ、その槍を手にした一人の天使が現れる。窓の外の天空に、羽ばたきもせずに浮かんでいる。大きく広げた白き羽根が、彼が地上の存在とは別であることを知らしめる。
「魔王アレスだな?」
威厳に満ちたその声に、アレスは自分の顔が歪むのを自覚した。
――これはとんだプレゼントだな。
魔王はすっと目を細めると、窓枠に足を掛けた天使を指さした。静かに告げる。自分の視た未来<こと>を。
「お前は愛される。良かったな」
魔王がそう静かに告げるのと、天使の羽根を岩石の塊が貫くのは同時だった。
■あとがき■
はい、というわけで「少年ブレンド」の短編です。
クリスマスといえば、聖なる夜。天使様を出すには一番かと思い、ついでに短くでも設定ぶち込みたいなと思い作成しました。
魔王様の街の名前や国の名前は初出ですからね。実は。谷の名前じゃなかったのです。
とにかく、当日は25日だということで、イブではなくクリスマスでの更新でした。
皆さまメリークリスマス。