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【BL】同時多角関係の浮気彼氏達


 先週末に会ったばかりだったが、お盆休みがなんとか取れた昌也はせっかくなので、帰省ラッシュのピーク日は避けて二日前から関東の良の家に泊りに来ていた。今の時刻は昼の三時で、新幹線の時間まで家でイチャイチャしていようという良の可愛い提案に乗った形だ。
「三日間一緒にいても、ほんとにすぐ時間って過ぎちゃうね」
 昌也は今夜の新幹線で関西へと帰る予定だ。さすがに一人だけでは、ここまで車で来る気にはならない。良を隣に乗せてのドライブならば、それこそ本当にどこへでも、なのだが。
「良と一緒の時間は幸せやから、すぐやな」
「うん。そういえばお盆ももう終わるけど、お兄さん達の動画、あがってないよね?」
 二人でいる間もずっとつけっぱなしにしているパソコンの画面に視線を向けてから、良が不安そうに昌也に問い掛けてきた。次いでその目が壁に掛かっているカレンダーに向かう。
「まー、盆休みは明日まであるわけやし、焦らんでも……おっ!?」
 試しにパソコンチェアに座り、パソコンから動画サイトのウェブページを開いたら、お勧めの欄に見慣れた後ろ姿が使われたアイコンと、『第一部隊隊長達』のチャンネル名があがってきていた。この連休中、良が事あるごとにこのチャンネル名を検索に掛けていたので、アルゴリズムが良い仕事をしたようだ。
「うわっ! あがってる!? 時間は……もう十時間も前じゃん! 昌也、お兄さんからは連絡来てないの?」
 良の指摘する通り、動画のサムネイルの下の欄には『十時間前』の表示があり、昌也は思わず「クソ兄貴……」と舌打ちをしてしまう。
 昌也への連絡がなかったのは、絶対にわざとだ。それだけ――自信があるのだろう。わざわざURLを送り付けてこなくても、弟達の目に止まると本気で、確信しているのだ。
「このアイコンって、お兄さん達の背中だよね? 凄い。下手なコスプレ衣装より絶対かっこいいよコレ」
 チャンネルの顔とも呼べるアイコンを指差して、良が興奮気味にそう言う。その気持ちは昌也にもよくわかった。
 そのアイコンには、兄達の後ろ姿を写した写真を加工したものが使われていた。夕陽……いや、これは明け方の空だ。まだ薄暗い港にて、朝焼けをバックに三人がカメラに背を向けて立っている。その顔は真っ直ぐ朝焼けに向けられていて、辛うじて判断できる服装も髪も普段の三人とは全然違った。おそらく操作キャラクターの髪型と色合いに揃えているのだろう。そのためこの写真一枚だけでは、絶対に個人は特定されない。画像のサイズが変に小さいので、おそらくこの手前に三人の愛車も加えて撮った写真をトリミングしたのかもしれない。
「確かに、コスプレっちゃコスプレやな……」
 兄と拓真の普段着なら本当に腐る程見てきているが、こんなものを着ているのは見たことがない。
 三人はどうやら、自身のイメージカラーを決めてアイコンの服装を選んだようだ。兄は白で、拓真は黄色、一希は青の、背面から見る限りは同じデザインの長袖シャツを着用していた。色合いも朝焼けの暗さでほんのりわかる程度で、逞しい腕が隠れていること“だけ”しかわからないようにしっかりと計算されている。
 多分前はVネックなんかなー。前から見ん限り兄貴ってわからんように撮ってんなー。とかぼんやり考えてしまった昌也の隣に立って、良が「お兄さん、白好きなの? なんか意外かも……車、確か青色だったよね?」と呟く。
――確かに。兄貴、白も好きは好きやけど、青が一番好きやったはず……
「なんでやろな? 三人の中でのバランスとか?」
「あー、あれだよね? アイドルのイメージカラーは色合い被らせないとか、そんな感じかな? この一希さんって人が青、譲らなかったとか?」
「いや、絶対そんな子どもみたいなこと言う人ちゃうやろ。車、黒やし」
 思わず笑ってしまって、昌也はきょとんとする良に一希のSNSのページをスマホで見せてやった。一枚目からギラギラとした黒の愛車の写真が踊っているそのページを見て、良は「う、うん……おっけー。もう、お腹いっぱい、です」と両手で押し返すような仕草をして唸った。
「まぁ、VIPカーで原色って珍しいしな。普段好きな色が青なんかもしれん……」
 自分で言いながら、もしかしたら兄も? と考えてしまう。
 昌也の愛車の車体は白だ。それはもちろん、この色が車<こいつ>に一番似合っていると昌也が思っているのもあるが、何より昌也の好きな色だからだった。憧れて、今では愛してすらいる兄と同じ色が好きだったら、嬉しい。遺伝子レベルで一緒だなんて、最高に幸せ。
「もしかしたら前みたいに、動画内で『イメージカラーの由来』とか書いてるかもよ? 観てみようよ。なんか、視聴回数多いし」
「……えらい多いな。もうこんなにかいな……」
 兄達の動画は、昌也からしたら異常な伸びをしているように見えた。それは隣の良も同じ気持ちらしく、早く早くと昌也を急かす。
 あくまで自分達の経験だけの話だが、初投稿の動画が十時間でこれだけの数再生されたことはなかった。これはなんだか……裏がありそうだ。
 昌也は右手でマウスを操作して動画の再生ボタンをクリックしながら、左手でスマホを操作する。先程開いていたSNSをそのまま検索して、目的の投稿を見つけ出す。
「やっぱり。兄貴ら、タイムアタックの記録動画、短く編集してこっちにもあげとるわ。これ見てほんまか気になって、本チャン動画に流れとるみたいやな」
「……こういうのって、社会人してたら皆考えつくのかな?」
「いや、これは年齢の差と、経験の差ちゃうかなー。やっぱ、どんだけクズみたいなことしてても、『人惹きつけるプロ』やからな、兄貴らは……」
 SNSの方の動画も再生しながら、昌也と良はパソコンの画面に集中する。いや、せざるを得なかった。
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