第十三章 フェンリスヴォルフ
爆発の最中、仲間達への被害を最小限にするために行動したのが仇となった。
しかし、自分の咄嗟の行動が一言で『仇』だとは、クリスは考えていない。考えるはずがない。いくら咄嗟のその判断のせいで、今の自分が劣勢に立たされていようとも、仲間を守るための行動は、無駄でも仇でもなんでもないのだ。
「そんなに、新しい“頭”が欲しいのか?」
クリスは抜き放った刀を握る手に全力を注ぐ。筋力も魔力も全て乗せた全力だ。こんな真剣でカッコ悪い姿を見せてしまったら、仲間達に笑われてしまうかもしれない。だから今、この時が一人で良かった。
雷神相手の一対一で。本当に良かった。これならば……この身が“人ではなくなる”その時を、愛しい仲間達に見せなくて済む。
ディアスとの戦闘中、クリスは爆発による衝撃により吹き飛んだ。それは爆発の元凶であるディアスも同じくだ。ただ、雷神は、その牙を持った頭だけになりながらも、クリスに向かってその攻撃を放ったのだ。
頭は既に衝撃により肉も骨も削げ落ちた。残るのは神と呼ばれる強大なる魔力のみ。そんな姿になりながらも、眩しい黄色い光が獣の姿を成したまま、クリスの持つ刃にがっぷりと嚙み合っているのだ。
神殺しは、人間には成せない。
それはクリスの生まれ育った北部では当然の考えで。
それ故に、神を殺す者は『鬼』と呼ばれるのだ。
雷神は、己の存続のためにこの都に新しく備わった、電力の管理者――『頭』に向かっている。そして獣が故の本能で、その『頭』を守る『番犬』にこうして牙を剝いているのだ。雷神は、都を己のものにしたいらしい。
――それも当然か。魔王に封じられた獣なのだから。
これまで幾度となく身体を守ってくれたダークスーツが、神の雷により引き千切れていく。対魔繊維による特注品も、神の魔力には太刀打ちできないようだ。人の限界を物語るようで……反吐が出る。
雷神が吠える。
「お前のようなケダモノに、俺達の“頭”は渡さん!!」
『鬼』と呼ばれるクリスも吠える。
『獣』と呼ばれた狂犬の、『頭』と呼ばれるクリスの刀が、神<ケダモノ>の魔力に深く食い込む。
頭を繋がれた守るべき存在は、繋がれた故にこの地を離れられなくなった。逃げることも目を背けることすらも、その自由を奪われて。そんな存在になってしまうのに、彼は――
――俺達を、最後まで守ろうとしてくれた。
それは強制でも、強要でもなかった。ただ純粋に、好意からくる優しさで、彼は自分達を守ってくれたのだ。
ならば自分も、彼のそんな『人間らしい』部分ぐらいはせめて、護り抜かなければならないと覚悟した。覚悟していたのだ。初めから。
神殺しは大罪だ。そんな罪を背負うのは、狂犬の頭である自分だけで良い。仲間達にはまた別の、“これから”の役目がある。任務とでも言えるような、それこそ命を懸けて臨むことだ。
この場所に、ケダモノのような神はいらない。神のように振舞う頭はあっても、ケダモノに堕ちたような存在はいらないのだ。獣のような人間や、人を愛する者のために、この場所は――この国は、生まれるのだ。
ここを守るのは自分の役目だ。
獣の頭はそう判断し、神殺しを遂行する。