第十三章 フェンリスヴォルフ
湖からコメイが操る荒ぶる水流の勢いに乗って運ばれたルツィアは、湖畔に辿り着いた瞬間、お次はリティストの用意していた逃走用の車両――門にて砂走の籠を運んだものを小型化した機械の乗り物に押し込まれた。
「っ! 待って! 私だけが逃げるわけには行きません! サクは! リーダー達は!? 雷神はっ、どうするんですか!?」
まだ混乱している頭に浮かんだ言葉をそのまま叩きつけるように吐き出すルツィアに対して、二匹の狐はあくまで冷静で。穏やかに、まるで愛する我が子を宥めるかのように優しい声で返答された。
「あの子の身体はちゃんと助けて、後から合流させるわよ! あたし達はもう行くから、ほーら。さっさと行った行った」
「そんなっ!? ちょっとっ!」
有無を言わさずとはこういうことなのだろう。ルツィアの反論など聞かずにコメイは出入り口の扉を閉めてしまった。
乗り物には人間二人が座るための座席があり、出入り口となっている扉を閉めるとひとつの大きな車輪のような状態になる。ちなみに座席の部分は回転しないので、一緒になって回ってしまうということはない。
扉が閉まると外の様子はまったく見えない。そのうち車輪が動く鈍い音が響き、足元に乗り物が進みだしたことがわかる振動が伝わってきた。
「……そんな……」
座席になんて着くことも出来ず、足元のスペースに屈みこんで涙を流す。こんな突然、こんなことに……
「ロック……レイル……」
揺れる足元から立ち上がることが出来ないまま、ルツィアはただ、愛する者の名を呼び続けた。
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。
座席に突っ伏すように寝ていたルツィアは顔を上げる。だが、そうしたところで何か景色が――状況が変わるわけでもないと気付き、小さく自嘲の溜め息をつく。
――まだコレは動いてる。都の出口まで行くと考えて、現在地は……
この乗り物には、内部からの操作を行うための操作パネルがついていない。どうやら目的地を予め設定しておく緊急脱出のための機能しかないらしい。これでは目的地どころか現在地もわからない。
ルツィアがこれからの行動を考えていると、走行による振動とは思えない衝撃が足元から響いた。