第十二章 古の記録
我らが愛するリーダーは、淀みない足取りでその建物へとルーク達を誘った。自分と同じく、クリスもこの都へ足を踏み入れたことはないはずだが、とてもそのように思えない足取りは、それだけ完璧に地理を頭に叩き込んでいるからだろう。
敵地ど真ん中、身を隠すこともなく、“白昼堂々”フェンリルの四人は目的地である『図書館』を目指す。
そう、白昼堂々なのだ。今の時刻は夜だというのに。
「確かに都に入るまでは夜だったよな」
どこからが境目だったかな、とルークは記憶を手繰り寄せながら呟いてみた。こういう考えても仕方がないことは『考える役目』のメンバーに任せるとすぐ解決する。今回も思惑通りに隣を歩いていたロックが欠伸交じりに答えをくれた。
「間違いねえよ。砂漠の夜は冷えるからな。どうやらケモノさんは寒さに弱いらしい」
最後なんて嘲笑交じりとなった“答え”に、“ケモノ”が反応を見せることはなかった。
見上げた空<天井>には人の手によって造られた巨大なドーム状の屋根が広がっており、どうやら都の中心部を覆っているらしい。剥き出しなのは都の入り口である鉄塔の森林地帯のみで、そのために拠点に入るまでこの異様な天井に気付けなかったのだろう。
種明かしが済めば確かに、空色の中に金属から発せられた光のようなものが薄っすら見えるし、陽の光と錯覚させる光量を放つ光源もどこか白が強い刺激的な色合いに感じてしまう。それにしても、都の外から見た時に何故この巨大な屋根が見えなかったのか。これも砂漠の砂嵐が搔き消す“秘密”の内に入るのだろうか。
「晴天に見える“空”は人工の天井か。太陽に代わる光を人間が作り出せるとは思えないが……」
「これだけ強烈な光が都を照らしてるけど、これじゃ駄目なのか?」
「太陽光には人体に必要な成分も含まれている。それが全て人工物で賄えるとは思えないな」
自分達とはまた違った問題に疑問を持っているリーダーに、ルークはへーっと改めて感心する。人の身体のことなんて死んでからのことしか興味がなくて、生きている間の健康面なんて考えたこともなかった。
「リーダー、考えこみながら歩くなよ。目的地、ここだろ?」
腕を組んで思考の体勢に入ってしまったクリスの肩を、ロックが軽く叩いて言った。
都の中心部にほど近い開けた土地に、その建物――『ルナール魔法資料館』はあった。
この辺りは環境保護区だと大通りの看板には書いてあったが、相変わらず近未来的な金属の気配に満ちた光景が続いている。継ぎ目すら見えない道路からせり出したような階段を上り、ルナール魔法資料館――通称『図書館』の前でクリスがこちらを振り返りながら言った。
「この図書館は名前の通り、ルナール全ての『魔力に纏わる事柄』が記録されている。ここに俺達の望む情報があるはずだ」
「文献探しは軍学校で卒業したつもりだったけどなー」
「仕方ねえだろ。それで、リーダーは僕らに何を調べさせたいわけ?」
レイルの腰を抱きながらロックがそう言って“挑発”する。それにクリスは静かに笑って、その表情を狂犬のものにして答えた。
「切り刻まれたケモノの復活方法だ。それが“この国”の行く先を決める鍵になる」