第十一章 犬と狐
フォックスに案内されながら地下通路から出て、そのまま市街地を歩いていたのだが、エイトはこの都の異質さに目を見張った。
入り口の様子や拠点と同じく『機械的』な印象を強く受けるこの都の街並みは、他のどんな地方のものとも異なっている。
ときおり淡い光が走る壁や道路は金属の寒々しい色合いをしており、真上から降り注ぐ太陽の暖かみすらもどこかうすら寒いものに思わせてくる。
南部の大通りではよく見た出店の類は全くなく、『人の喧噪』というものが皆無であった。店の看板を掲げている建物はあるのだが、その入り口と思われる鉄製の扉は、とても気軽に開けて良い雰囲気は出していない。
せっかくの晴天なのにこんな有様なので、この街の人間は本当に、存在すらしていないのではないかと不安になる。
――機械兵士だけの街、ってのは……案外本当なのかもな。
外の人間からすれば絵本の中だけの話のようだが、もう二十分は歩いていてこれなのだ。この胸に覚えた不安がどうか現実でないことを祈るしかない。
「観光って言ってたが、市街地自体がゴーストタウンみてえだな」
拠点を出た時から口を開いてすらいなかったフォックスに、同じくエイトは初めての問い掛けをした。
「エイトさんが考えてる通り、やわ。この街は機械共の数に比べて、圧倒的に人間の数が少ないねん。でも、全くの無人ってわけちゃうから、飯時とかはそれなりに賑わうでー」
隣を歩くフォックスからの返答は、『普通』だ。なんの問題もない世間話のように返答された。その声音に嘘の気配はない。
「へー、なら今は『仕事中』とか?」
「軍人以外は普通に建物ん中で仕事してる時間やなー。やから、これから行く観光スポットも、多分めっちゃ人少ないで」
「どんなに人が少なかろうが、外からの観光には力を入れてますってか? そんな場所じゃねえだろ、ここは」
事前に狂犬達の頭から聞かされた話が本当ならば、この都は間違いなく血生臭い演舞の舞台だ。外からの目を排除した、観客のいない狂った悲劇の幕が、もしかしたら今も静かに……
「エイトさんめっちゃツッコムやん。やっぱ南部の血やんなー。そんな場所じゃなくても、あるねん。人の感心<目ぇ>を惹き付けて止まへん“観光スポット”がな」
そう話すフォックスの口元には、狂犬達と同じ類の笑みが貼り付けられていて……
「なんだよ。そこ……」
「『銀の鏡』って呼ばれてる場所でな、そこには『人間の醜さ』が浮かび上がってるんやわ」
「……わざわざ醜さを見に行くのか? 悪趣味な連中が多いこって」
「エイトさんも見たらわかるわ。人間は心のどっかで、醜さの中にも美しさを見ることが出来るんやってな」