第十一章 犬と狐


 ひとしきりコメイとの再会を楽しんだ後、レイルはシャワールームに向かった。
 この拠点は広い方ではないので、シャワールームは一つだけだ。時間を分けて使用しているらしく、浴室には三人分のシャワーセットが別々に並んでいる。
 とりあえず身体の汚れを流したいだけのレイルは、今はお湯で流すだけにする。まだ夜は長いので、本格的なシャワータイムは明け方ぐらいになるだろうか。それまで男の匂いがプンプンなのは、コメイ程ではなくても少し不快だ。
 各々の部屋へと繋がる廊下を出て入り口に接する作戦立案の為のスペースに戻り、反対側の扉を開ける。その先からトイレとシャワールームが続いていて、そこには同じことを考えていた先客の姿があった。
「おー、もしかして姐さんに言われた? 男くさーいって」
 既に服を脱いで全裸であったロックが、そうゲラゲラ笑いながら抱き着いてきた。レイルも別に誰に見せても問題ないからと、シャツを羽織っただけの下着姿のままで来た為、ほとんど肌の露出度的には差がなかった。
「怒られたよ。さっさと洗って外行こうぜ。リーダーがキレる」
「ルークに先行ってもらったから大丈夫。ついでにルツィアとリティストのフォローもな」
 シャワールームへの扉を開き――この都はどこもかしこもスライド式の扉のようだ――ながら、ロックがレイルを手招きする。レイルもさっさと服を脱いで彼に続く。さすがに服を洗う余裕はないので、着替える必要がありそうだ。
 浴室は部屋と同じく金属色が強い空間で、どことなく淡い光を宿していた。室内とは異なり白色の光ではないので、気持ち的にも落ち着く。
 二人で入っても余裕のあるスペースで、レイルとロックは敢えて身体を寄せ合いながらシャワーを浴びる。立ったまま密着する形になるので、背後に立つロックの興奮がレイルにもしっかりと伝わってくる。足元を打つ飛沫の音が、金属に吸い込まれていくようだ。
「……さすがに盗聴はなさそうだ」
 ぐっと腰に腕を回しながら、ロックが耳元で囁く。どこまでも油断しないそんなところが、愛しくもあり恐ろしくもある。そんな同僚のことは、嫌いではない。
「内緒話はベッドの中だけじゃ物足りないってか?」
 振り向いてクスクス笑ってやると、ぐりぐりと欲望を押し付けられた。こちらを見下す瞳の色合いにゾクリとする。
「フォックスもリティストも、“クソ狐”の気配が強くなってる。こりゃ、最悪の状況ってのも、有り得るんじゃねぇ?」
「おいおい、コメイの姐さんも入れてやれよ」
「姐さんが大事なのは同じ狐でも嫁入りの方だろ? 上手くオス共を抑えてくれてりゃ良かったんだけどなー」
「とにかく、さっさと出ようぜ。任務の前に鬼に腹引き裂かれたらたまんねえ」
「それもそうだな。クソ狐達もおっかねえが、僕等のリーダーの方がよっぽどおっかねえ」
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