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第十一章 犬と狐


「エイトさん? 大丈夫?」
 メス犬の名残を感じるフォックスを眺めている間にうとうとしてしまったらしく、ロックとルークは部屋を出て行った後だった。
 心配げにこちらを見上げるフォックスに頷いてから、エイトは軽く頭を振って部屋を見渡した。
「わりい。移動の疲れが出ちまったかも。年下相手に情けねえな」
 フォックスの部屋は、どうやら一般的な子供部屋を“意識”だか”目指して”だかしているようで、男の子らしい車が描かれたカバーの掛かったベッドの他に、勉強机まで置いてあった。
 エイトは今、その勉強机の椅子に座っていて、部屋の主であるフォックスは床に散らかった“サンドバック”達を片付けている最中だ。
「つーか、サンドバッグって言いながらなんでオモチャなんだよ?」
 フォックスが拾い上げているのは全てオモチャだった。子供用の柔らかい素材で出来た動物をあしらったそれらは、まるでぬいぐるみのように腹部が膨れている。五個程を腕に抱いて、ベッドの横にあったオモチャ箱らしき籠に放り込んだフォックスが答える。
「昔の魔力が強過ぎる人がやってたらしいんやけど、高い魔力を受け継いだ子供の魔力が暴発せんように、オモチャの形に誤魔化して魔力を吸い取るモンを用意してたらしいねん。ボクのはそれの真似事。別に形はなんでも良かったんやけど、もし仮に部外者が入って来ても誤魔化せるようにってリティストに言われた」
「なるほどねー。アジト襲撃とか、さすがに都内ではねえだろ?」
 この都の内部情勢も聞いている限りあまり良くはなさそうだが、それでも南部よりはマシに思える。エイトの考えに、フォックスも同意のようだ。
「まだ、な。でも、これからどうなるかはわからへん。だってその為に、来たんやろ?」
 いつの間にかその手からはオモチャが消えていて、代わりに薄手のグローブを両の拳に装着したフォックスがエイトを真正面から見据えていた。その身に纏うはあの狂ったような、それでいてこびりつくような負を発する雷の気配。甘さすら残る大きな狐色の瞳には、どこにも愛らしい年下の面影は見えない。
――確かに、こいつは……他人だわ。
 少年の身体に埋め込まれた“男”の気配を感じ取りながら、エイトは舌なめずり。愛欲の対象としての興奮ではなく、武人としての興奮を覚える。この高揚感がエイトは好きだった。
「ルークもロックも、やらしい目ぇして“物色”しに行ったことやし、ボクらも観光でもせん? ちょっと離れたとこになるけど、エエ広場知ってるねん」
 それが何の誘いを意味するかを見抜き、エイトは笑みを抑えることなく了承した。
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