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第十一章 犬と狐


 デザートローズで見せられた彼女の腕は、継ぎ接ぎを光の下に晒していた。砕かれた豪奢な床の残骸に紛れても、その白腕は浮かび上がるような美しさを放っていた。
 あの時のエイトは、正直“正気”ではなかった。しかし“狂っていた”わけでもなかった。彼女に比べれば自分等、狂ったうちに入らないだろう。
 それ程までに危険な行為を、本部は彼女の身体に――いや、四人の身体に行っていた。
 医学的なことはエイトにはわからない。だが一般的な常識として、人間の身体は『他人の身体』を受け付けない。血液でも臓器でも、ましてや身体のパーツ等、挿げ替えようものなら激しい反発によって死に至る。そういうものだと、エイトにでもわかる。
 また、その拒絶反応は魔力によっても引き起こされる。この拒絶を限りなくゼロに近くするには、血縁関係の者を用いる他なく、他人のパーツを使用するなど自殺行為に近いものだった。
 しかし、それを本部はやってのけた。本当に、これを実行した者はマッドサイエンティストというやつなのだろう。
 その継ぎ接ぎを見た瞬間、エイトの頭には文字通りの電撃が走った。それは感覚的なものなのか、それとも彼女の攻撃の残り香か……とにかくそんな知識のないエイトの頭にも、彼女の身体に『他の人間』が入っていることが理解出来たのだ。
 構成員に機械を埋め込むことすら平気でやってのける組織だということは、エイトも昔から知っていた。健康なる人間の身体から、任務の為だけに視力を奪うところすら見せつけられている。だからこそ、その『勘』とも言える雷撃が、まやかしだとは思っていなかった。
 それは彼女の、声なき悲鳴だと思った。狂おしいまでの悲鳴は、歪んだ口から零れることはなかった。
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