夏だ!海だ!林間合宿だ!
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いつ、何が起きてもいいように神経を張り巡らせてからどれくらいが立っただろうか。ぱっと、景色が変わる。くらい所から、そとの景色。必死に伸ばされた手が見えて、確証なんてどこにもないけど、焦凍くんだとわかった。
静かだった場所からありとあらゆる声が、音が一気に入ってくる。それでも1番に聞こえたのはやっぱり彼の声で、
「心!!!」
「焦凍くん!!!!」
伸ばされた手に、答えようと伸ばした手は届くことなくモヤに飲み込まれていった。
「ざーんねん。お前のせいだよ、ぜーんぶ」
その声を最後に、意識はプツリと途切れた。
*
爆豪と心が攫われ、一夜明けた。
15分後にはブラド先生が通報していたらしく救急隊や警察が来てもちろん林間合宿は中断。重軽傷者、意識不明者多数。ましてそれが雄英とあって、学校はすでにマスコミだらけ。ニュースではどの番組でも騒いでいる状態。
"焦凍くん!!!!"
思えば、自ら手を伸ばしてくれたのは、はじめてだった。
それなのに、俺は
「あー!?轟なんでいんの!?」
「おまえこそ」
思考を打ち切った声は、切島だった。そりゃそうだ、昨日の今日で病院、だなんて特にすることも無いはずなのに来るだなんて。
「俺ァ…その、なんつーか…家でじっとしてらんねー…つうか、」
「そっか…俺もだ」
そのまま、流れで入院してる奴らの見舞いにいく。誰1人目を覚ましてなかったが無事だった。そしてその帰り道、八百万の病室に警察とオールマイトの姿を見て、2人で聞き耳を立てる。
その内容に、2人で顔を見合わせた。
*
あそこで話すわけにもいかねぇってことで、外の裏庭にあるベンチに、並んで腰掛ける。木々から漏れる日が眩しい。あんなことがあったなんて信じられないほどに。
「…話、聞いたぜ。目の前で爆豪と… 翠蒼が」
「……ああ」
ぐっと、右手を握る。確かに触れた指先の体温が、残るはずもないのにいつまでも蘇ってくる。それを忘れたくなくて何度同じことを昨日からしただろうか。
しばらく沈黙が続いていたが、それを破ったのは切島。
「…こんな時に聞くのも変だけどよ、轟」
「なんだ?」
「お前、翠蒼のこと好きなのか」
木の葉がざっと揺れる音がする。切島の言ってるそれが分からねぇほど子供じゃない。
それでも口から出た答えは、考えたことはなかったが、迷うまでもなかった。
「ああ、好きだ」
「…俺が聞いといてなんだが、スムーズに言うのな。自覚あったのか?」
「いや、今自覚したよ。でも多分、ずっと前から好きだ」
凛と真っ直ぐ、夢を追う姿は強くかっこいいと思った。
時折垣間見える弱さを、俺が支えたいと思った。
くしゃっと幸せそうに笑う顔を、もっと見せて欲しいと思った。
いつも堪えて見せない泣き顔も、見せて欲しいと思った。
ただその時は、涙も拭わせて欲しいと思った。
何よりも守りたい。けど、心はただ守られてるのは嫌だって言うだろうな。だけど、あいつの隣に立って一緒に戦うのは、俺がいい。
きっと俺の左手を暖かいと言ってくれた時からずっと胸の奥にあって、少しずつ大きくなっていたその気持ちが恋だとするならば、ずっとずっとあった。切島に言われて、はじめて口に出しても、不思議とストンと、落ちてきた。
「お前、そんな顔もすんのな」
「どんな顔してんだ?」
「そこは自覚なしか!…ま、轟が翠蒼のこと、すげぇ大切ってことが分かっただけだ」
「…ああ、そうだな」
いつか、体育祭の時だったか。「なんでここまでしてくれるの」と尋ねられたことがあった。あの時は、この感情に名前をつける前。でも、今度こそはちゃんと答えよう。
それならもう、後悔もなにも今はしている暇はない。
「切島、行こう」
「……おう」
どこへ、とはお互い口にせずともわかっていた。
あいつがはじめて伸ばしてくれた手を、まだ掴めるなら、届くなら、今度こそ離さないように。
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