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…遅い。
不覚にも今朝は緊張して早く起きてしまった。
これがリリーとのホグズミードデートならどんなに嬉しかっただろうか…そんな事を考えながらも視線は先輩を探すのに必死だ。
全くあの先輩は、自分からホグズミードに誘っておきながら、時間ギリギリになっても現れない。
まさか、今日のホグズミード行き自体が冗談でしたなんてことはないだろうか?!
いや、あの人なら充分あり得る。
その時、ドサッと僕の背中に重みを感じて前のめりになる。
「おっまたせぇ!!」
僕の肩越しに先輩の笑顔が見える。
「フィルチに捕まった!!ごめんごめん!」
先輩が後ろから僕の横にやってきた。
「置いて行こうかと思った所でした。」
僕はジト目で先輩を睨む。
「またまたぁ。待ってたくせに。」
頬をぷにっと掴まれて僕は赤面する。
「さぁ!行こう!」
先輩が僕の腕を掴んで歩き出した。
先輩はぴったりした黒いパンツにブーツ。
Vネックのシンプルなニットにカーキー色のモッズコートを羽織っている。
ボーイッシュな格好で、いつもと変わらず飾らない。
ホグズミードに行く女子たちは着飾っているのに、この人は女子力が無いのだろうか。
それとも、僕ごときと外出する時は着飾らないのか。
もし後者なら、相変わらず失礼な先輩だ。
「一番先にハニーデュークスでお菓子買っていい?」
先輩が僕を上目遣いで見る。
「羽ペンの店のが近いですよ?」
ムッと先輩が険しい顔をする。
「…好きにしてください。」
「ありがと!」
先輩は一瞬で機嫌を治して僕の腕をぎゅっと抱きしめた。
甘い香りと目が眩む色彩のハニーデュークスに着くと先輩は嬉しそうに足をバタバタさせた。
「セブルスは何が好きなの?私はねぇ…」
そう言いながら店内に入ろうとした瞬間、先輩が足を止めた。
「セブルス、やっぱり先に羽ペンの店に行こう!」
「ここまで来たのにですか?」
先輩は僕の手を引っ張った。
全く勝手な人だ。
予想はしていたが、早速先輩に振り回される。
僕は呆れながら先輩の後について、スクリベンシャフト羽根ペン専門店に入った。
羽ペンを選んでいる間、先輩は僕から離れどこかに行ってしまった。
一人になったお陰で、欲しかった羽ペンをじっくり吟味して購入できた。
僕は先輩を探す。
人気のない店内の窓から日が差し込んで、キラキラと埃が輝いている。
目を凝らすと先輩がいて、楽しそうに商品を手に取っていた。
男みたいな格好なのに、その横顔はやっぱりきれいで僕は思わず見とれてしまった。
先輩が僕に気づいてこちらに歩いて来た。
「もういいの?」
「はい。欲しいのは買えました。」
「もっとゆっくり見てよかったのに。」
そう言って優しく僕に微笑んだ。
いつもはガサツな名無し先輩が今日はちゃんと先輩らしい。
何だか調子が狂う。
急に変な気分になって僕は話題を変える。
「もう僕は終わったので、振り回してください。」
「言ったな!」
先輩は悪戯な笑みを浮かべた。
よかった。いつもの先輩だ。
「さぁ、どこに行きますか?」
名無し先輩は腕を組んで何やら考えこんでいた。
こんな狭い地区で何を迷うことがあるのだ。
「う~ん…さっきはハニーデュークスにいたしなぁ…」
何やらブツブツ呟いて、よしと顔を上げた。
「バタービール飲みにいこう!」
「もうですか?!」
悪い?という顔で睨まれたので僕は口をつぐんだ。
三本の箒の扉を開けると、中は人で溢れていた。
こちらにどうぞと案内された席で、先輩が一瞬まずいという表情をした気がした。
「セブルス、こっち来て。」
先輩が僕に体を擦り寄せてくる。
「急になんなんですかっ?!」
先輩が僕にくっついて満点の笑みを浮かべる。
「恋人ごっこ。」
「馬鹿ですか?!」
アワアワと焦って、さっきの先輩の表情のことなどすっかり忘れてしまった。
「おいしいぃ!」
先輩の鼻の下にバタービールの泡がついてヒゲになっている。
お約束すぎて笑ってしまう。
僕は笑いながらそれを拭いてやる。
先輩は犬みたいにもっともっとと顔を突き出してくる。
「帰りにハニーデュークスとゾンコ寄りますか?」
「う~ん…酔っ払ってそれどころじゃないかも。」
「これ…ノンアルですよ。」
冗談やないかい!と先輩が突っ込む。
不意に後ろが気になって僕が振り返るのと、名無し先輩が声を発したのが同時だった。
「あっ!ダメ!」
視線の先にポッターとリリーが座って仲良くくっついている。
キャメルのセーターとヒラヒラのスカートがリリーによく似合っていて、正直すごく僕好みだ。
僕は慌てて先輩の方に顔を戻す。
「…あーっ…」
先輩が気まずそうに前髪をぐしゃぐしゃさせた。
今まで楽しかった気分が急に萎んで、胸がスッと寒くなった。
「セブルス…」
先輩が僕の手を優しく握る。
「さっきハニーデュークスで二人を見かけたから、次はゾンコかマダム・パディフットの店にいると思ってここに来たんだけど…」
「えっ?」
僕は先輩を見る。
ハニーデュークスで回れ右をしたのはそう言う訳だったのか。
ここに来てワザと僕にくっついたのも、後ろの二人を見せない為だったんだ。
「……先輩も気遣いできるんですね…。」
「いえいえ…ってなんだと?!」
ギョッとした表情で先輩が僕にツッコむ。
それを見て笑う僕を見て、名無し先輩もホッとしたように笑った。
今日は先輩とデートしているのに、僕が凹んでいたら先輩に失礼だ。
ここは気にせず楽しもう。
「私をからかうなんて、セブルスのくせに生意気ね!」
「いつもからかわれてるので仕返しです。」
ぐぬぬ…と悔しそうにする先輩の顔は可愛い。
「私もさぁ…」
先輩がまた泡をつけながら僕の目を見る。
「振り向いてもらえないの、好きな人から。」
突然の会話に僕はポカンとする。
「だから君の気持ち、ちょっとわかるよ。元気出しな。」
そう言うと、僕の髪をぐしゃぐしゃ撫ぜて笑った。
名無し先輩に好きな人がいるのか…
僕は頭をぐしゃぐしゃされながら、固まってしまう。
んっ…?
何故ショックを受けているんだろう?
この気持ちはなんだ?
僕の好きな人はリリーだよな…?
「うわっ!!」
先輩の怯えた声で我にかえる。
コートのフードを被って、体を低く伏せている。
「なっ?何ですか?」
「ブラックが来た!」
えっ?と後ろを向くと、グリフィンドールの憎っくき四人組がいつの間にか勢揃いでリリーを囲んでいる。
僕も慌てて先輩に向き直る。
「私達ヤバイよね?」
先輩はこの状況を楽しんでいるのか半笑いでフードの中から僕を見る。
確かに見つかって良いことなど一つもない。
「セブルスの後ろ姿見られたらバレる!私の横に来て!」
「横に行ったら顔面見られてもろバレじゃないですか!」
いいから来て!と手を引っ張られて、そっと座席を移動した。
クソ。
見たくもないポッターとリリーが見える。
ついでに名無し先輩につきまとうブラックも視界に入ってきてイライラした。
その時、ブラックがパッと顔を上げるのと、先輩が僕を抱きしめるのが重なった。
大きなフードを被った名無し先輩が僕に覆い被さる。
僕の目の前に先輩の可愛い笑顔がある。
静かにと人差し指で僕の唇を塞ぐ。
何て可愛い顔をするんだろう。
キラキラと光る真っ黒な瞳に吸い込まれそうだ。
自分でもわからない切ない気持ちになって、このままこの人の唇に自分の唇を重ねたい衝動に駆られた。
「うわ、奥の二人めちゃくちゃくっついてるぜ!」
「シリウス、やめなさい!行きましょ!」
アイツらの声がして、しばらくするとそれも聞こえなくなった。
先輩がチラッと後ろを見て、僕から体を離した。
「大成功!」
フードを外しながらピースサインをする。
僕は呆然と名無し先輩を見つめたままだ。
「アタッ!」
先輩にデコピンされて僕は声を上げた。
「私に見とれちゃった?」
「ま、まさか!!」
ふふふと名無し先輩は笑って、バタービールをグビッと飲んだ。
「今日はいろいろあったけど、楽しかったね。」
「…まあ…そうですね。」
楽しい時間はあっという間に終わってしまった。
もう少し先輩といたいと思う自分は変だろうか。
ホグワーツが見えた所で名無し先輩が僕に近づいて背伸びをした。
「今度は叫びの屋敷に行ってみよう…」
甘い声が耳元で囁く。
カッと顔面が熱くなって僕は慌てて体を離す。
「行く訳ないでしょ!!
先輩の貞操観念はどうなってるんですか?!」
ニヤニヤ笑う先輩がいる。
…クソ…またやってしまった…!!
僕は真っ赤になって弁解する。
「私はただ、肝試しに行こうって誘っただけなのになぁ…
セブルスは何を想像したのかしら?」
「いや、違います!別に僕はっ!」
先輩はケラケラ笑っている。
僕は弁解をやめてため息をついた。
その楽しそうで可愛らしい顔を見ると、この人を楽しませればいいか…と思えてしまうのだ。