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試験終了の合図とともに教室中には歓喜の声が上がった。
僕は問題用紙を手に教室を出た。
大勢の生徒が行きかう廊下を歩きながら、ぼんやりと窓の外を眺める。
学年末試験は無事に終了した。
あまり興味はないけれど寮対抗クィディッチ杯あって、それが終われば夏休みだ。
夏休み明けは7年生、最高学年になる。
なんだか時の経つのは早いな…。
「…失礼しました。」
少し先の進路指導室から出てくる名無し先輩に出くわしたのはその時だった。
ドアを閉めると小さな溜息をついて先輩が僕のほうを向いた。
「あー!!!セブルス!!!試験終わった?!」
僕の顔を見るなり元気いっぱいの笑顔を浮かべ走り寄ってくる。
「はい。今さっき終わりました。先輩も終わりましたか?」
「この学校の全ての試験を終了しました!褒めて褒めて!!」
先輩はそう言って僕の左手に腕を絡ませると撫ぜてくれとでも言うように頭を僕の肩にくっつける。
そうだ。
なんだかいつも子供っぽい人だからすぐに忘れてしまうけれどこの人は僕より学年が一つ上だった。
夏休みがあけたら名無し先輩はもうこの学校にいないんだ…。
いつもの僕なら先輩の体を力いっぱい押し戻してやるところだけれど、そんなことを思ってしまって思わず戸惑ってしまう。
「今日は嫌がらないんだね」
へへへと僕を見上げながら先輩が嬉しそうに笑う。
「6年もこのやりとりを続けているとさすがに疲れました…。」
僕は思ってもない事を口にして先輩を左手にぶら下げたままにする。
いつもはうっとおしくてしかたない先輩の行動一つ一つがなんだかありがたく思えてくるのが不思議だ。
「…進路指導室で何してたんですか?」
しんみりした気分を拭おうと僕は先輩に質問する。
「ああ、卒業したらねここに残るか実家に帰るかまだ迷ってて、ちょっと相談してたんだ。」
「日本に帰って就職ですか?」
「…日本に帰ったら稼業を継ぐ感じかなぁ。」
「先輩のご実家は…」
「神社。兄が継ぐんだけどね。その手伝い的な。」
…日本…随分遠いな。
「こっちでもいいんだけどね。日本も好きだから迷ってるんだ。」
「こっちにいるとしたら何するんですか?」
「美術関係の仕事がいいなぁ。絵を勉強するならこっちのほうがいいんだよね。」
僕らの足は自然に誰も来ない噴水の庭に向かう。
噴水の庭は今日も荒れ放題で朽ちたベンチがふたつ並んでいる。
僕らは定位置に腰かけると話の続きを始める。
名無し先輩とこんなまじめな話をしたことがあっただろうか?
横に座る先輩の顔をそっと見つめると、黒く長い睫毛が日の光に輝いている。
高いとは言えないけれど形のよい鼻がと小さな唇。
白くて柔らかそうな頬。
時折拭く風に揺れる黒髪。
この横顔を見るものあと少しだと思うと僕の胸が何故だか痛んだ。
「テストも終わったし、こっからは楽しいことだらけだね!」
先輩が僕の背中をポンっと叩く。
「最後の寮対抗クィディッチ杯、セブルスの謎の薬がまだ残ってたら私出たかったな、男になって!」
「ああ、あの失敗作…」
「リリーの目の前でポッターを箒から落としてやりたかったな。」
先輩が僕を見て悪戯っぽく笑う。
「もう勉強しなくていいと思うと嬉しいけど、セブルスがまたポッター達にいじわるされたらやり返せないのが残念!」
「自分で仕返しするので大丈夫です。」
先輩は少し困ったような笑顔をして僕の頭を優しく撫ぜた。
初夏の爽やかな風が僕らの間を通り過ぎて、緑の香りが心を癒す。
急に先輩が黙り込むから僕も口をつぐんでぼんやりとアーチに絡む蔦を見つめた。
何だろう…この悲しさは…
名無し先輩はずっと僕の隣にいると思っていた。
僕が落ち込んだとき、どこからともなくやってきて僕を笑わせてくれる先輩。
頼んでないのに世話を焼いて、いつもリリーと僕を応援してくれた先輩。
どんな場所にいても先輩だとわかる明るい声。
元気な笑顔。
美しく優しい僕の大好きな名無し先輩。
こんなにも名無し先輩が僕の心の中で大きくなっていたなんて。