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「いやぁ、明日が土日で助かったわ。
休みの間には元に戻るでしょ。」
カーテンの向こうから男の声で話す先輩の言葉が聞こえる。
僕ら三人は顔を見合わせて微妙な顔をした。
カーテンが開いて姿を表した名無し先輩を見てエイブリーがおお!と感嘆の声を上げた。
「エイブリーの背が高くて助かったよ。
これちょっと間貸してね。」
エイブリーのTシャツとジャージを履いた先輩は完全にイケメンの男だ。
下着も貸しますよ?!とニヤニヤ笑う二人を押しのけて、まだおろしてない下着を先輩に押し付けたが…ちゃんと履いているのだろうか?
「…下着も履きましたか?」
マルシベールがメガネを上げながら先輩に質問する。
「…好きでもない男子の股間を見るのは嫌だから目つぶって履いたわ。
トイレの時どうしよう…」
名無し先輩が珍しく顔を青くさせた。
「セブルス、パンツありがとね!」
急に先輩が僕に覆いかぶさる。
いつもの先輩の勢いで飛びついてくるから僕はよろめいた。
「あっ!ごめんごめん!今はデカイ男だった!!」
体の大きな先輩に抱きすくめられて何だか妙な気分になる。
「先輩、制服貸してくれって言ってましたが必要なくなりましたね。
明日私服貸しますよ。」
エイブリーがクローゼットを開けながら先輩にそう言った。
「おっ!デート用の服貸して。」
「明日デートですか?」
何?!と僕は先輩を見る。
「アリスがまた変な男に捕まったらしくて、しつこいんだってそいつが。
だから私に男装して一緒に会いに言ってくれっていうの。」
男の口から話される女言葉に違和感がある。
「…先輩、話し方も男っぽくした方がいいんじゃないでしょうか?」
いいぞ、マルシベール。
「あ、そうか。うん。
…で、明日アリスとデートなんだ。
完全に男になったから私を見て相手も諦めるだろうね。」
名無し先輩が楽しそうに笑う。
その顔が男の僕達も見とれてしまうほど美しい。
サラサラと揺れる黒髪。
男子にしては色の薄い肌。
真っ黒な瞳に長い睫毛。
「そうだ。このまま女子寮に戻ったら騒ぎになると思う?」
僕ら三人は顔を見合わせる。
「中身は女のままだから、ルームメイトに変な気を起こすことはないだろうな。
事情を話して入れてもらうか…」
「この部屋のベッドが一つ空いてるので泊まっても構いませんよ?」
エイブリーがそう言った。
冗談じゃない!!!
今は男の姿だけれど、中身は名無し先輩なんだぞ?!
「……やめておいたほうがいい。
君たちのためだ。」
先輩が熱っぽい視線で僕らを順に見る。
「私は君たちを可愛いと思っている。
…意味はわかるだろう?」
背中に嫌な汗が伝う。
「ああっ!!!先輩!!!もういいでしょ?!部屋に戻ってください!!!」
僕は大きな先輩の背中を押してベッドから立ち上がらせた。
「つれないなぁ。
一晩中抱きしめてやろうか?セブルス。」
「結構です!!!さぁ、帰って!!」
僕はそのまま先輩を扉まで押して外に出すと勢いよくドアを閉めた。
「おやすみぃ、可愛い後輩くん達!」
扉越しにくぐもった声と笑い声が聞こえて足音が遠ざかって行った。
「マジで名無し先輩イケてたな…」
「…ああ」
後ろの二人の話を聞きながら、僕は不安でたまらなくなった。
あの人は絶対何かをやらかす。
大丈夫だろうか…
土曜日の朝、エイブリーの洋服を借りた先輩は眠そうな目をこすりながら美しい姿で僕らの前から姿を消した。
昨日の夜、女子寮でちょっとしたパニックが起こったらしいことは容易に想像がつく。
僕は朝から名無し先輩が早く帰ってこないだろうかと外ばかり見つめていた。
午後になって芝生で本を読んでいた僕の耳に嫌な声が入って来た。
「どういう事だよ?ピーター!」
「わからないんだ。
見たことないスリザリンの先輩がいきなり乱入してグリフィンドールが負けそうになってるってことしか…」
僕には目もくれず、ペティグリューとブラックが足早にクディッチ競技場の方に歩いて行く。
そうか…今日は土曜日だから朝から練習試合をしているんだ。
…ん?
見たことないスリザリンの先輩…?
…まさかな。
僕は胸騒ぎがして立ち上がった。
競技場に黄色い声が響いた。
名無し先輩とデートに行ったアリス先輩!!
僕の予感は敵中した。
グリフィンドール選手の合間を物凄いスピードで抜けるひとりのチェイサーがボールをゴールに投げ入れた。
またアリス先輩が叫び声を上げる。
ボールを入れた選手はグルッと派手に旋回すると、アリス先輩の前にやってきてピタリと静止した。
「どう?なかなかやるだろ?」
「かっこよすぎる!!!」
ニヤッと笑った選手の顔を確認すると、それは間違いなく名無し先輩だった。