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誰もいないコンパートメントで僕は流れゆく景色を見つめていた。
長かった夏季休暇が終わって今日から新学期が始まる。
この列車のどこかにリリーも乗っているんだろうか。
車内が騒がしくなり、到着の時間がやってくる。
僕は荷物を取るため立ち上がった。
「名無し、髪また切ったの?」
「少しだけね!どう?ピアスが目立つでしょ?」
元気な声がして僕は振り返る。
僕のコンパートメントのガラス窓を通り過ぎるスリザリンの先輩達。
名無し先輩がいたように思えたけれど、気のせいか。
さっきまでリリーのことで少しだけ痛かった胸が先輩の声で元気を取り戻したようだ。
こんなに大勢人がいるのに、何故か名無し先輩の声はすぐわかってしまう。
傍にいるときはめんどくさいのに、いないと寂しい不思議な人だ。
名無し先輩は相変わらず元気いっぱいなんだろうか。
今年も僕を全力でからかうつもりだろうか。
なんだか恐ろしいような、楽しみなような複雑な気分で僕はひとりニヤリとした。
「よう、久しぶり。」
列車を降りるとエイブリーとマルシベールが僕の背後から声をかけてきた。
「…ああ。」
9月はまだまだ暑くて、ジワリと太陽が肌を焼く。
暑いのは嫌いだ。
「お前、相変わらず暗いな…」
マルシベールが僕を笑う。
「暑っ!後で時間あったら泳ごうぜ?」
エイブリーがそう言うと、マルシベールが女子の水着見れるかもなぁと言い出した。
「巨乳の女子が泳いでるといいけどな。」
「俺は尻!!!」
お前は?と聞かれて僕は呆れてため息をついた。
「久しぶり!後輩君達。おしゃべりしてると遅れちゃうよ。」
元気な声に横を向くと、名無し先輩が笑っていた。
ボーイッシュな容姿が爽やかで、夏がとても似合う。
胸元まで開けたボタンシャツから覗く白い肌にドキッとした。
「名無し先輩お久しぶりです!」
エイブリーとマルシベールは少し興奮したようにさり先輩に挨拶をする。
「なんだか変な話してたようだけど…先輩もまぜなさい!!」
そう言いながら、名無し先輩はエイブリーとマルシベールの背中を勢いよく叩いた。
「何々?君たちは女の子のどこが好きだって?!」
名無し先輩に突っ込まれたふたりはアワアワと顔色を変えている。
くるっと僕を見た先輩が、僕の見たかった悪戯な笑みを浮かべた。
「セブルスはどこが好きなの?
まさか、僕は興味ありませんなんて言わないわよねぇ?」
少しだけ日焼けした先輩。
気付かれないくらい髪を切った先輩。
僕にだけ特別な笑顔を向けてくれる先輩。
横に並ぶ先輩の背はいつの間にか小さくて、僕は先輩を見下ろした。
僕の背はいつの間に伸びていたんだろうか?
先輩はこんなにも可愛らしかっただろうか?
休みの間会えずにいたら、なぜか先輩のことが気になる。
ただの…少しだけ仲の良い先輩だと思っていたのに…
「…先輩が好きだ…」
「…はぁ?」
エイブリーとマルシベールがびっくりした声を上げた。
名無し先輩もぽかんと口を開けて固まっている。
僕自身もまさかこんなことを口にしてしまうなんて!とびっくりして固まった。
「……ふふ。あはははは!
先輩、今年はからかわれる前にからかってみましたけど、びっくりしました?」
僕は自分の気持ちをごまかすように声を出して笑った。
おい!!とエイブリーとマルシベールもつられて笑う。
「早速からかってやろうと思ったのに先越された!」
そう言って笑いながら左手で口を押える先輩の薬指にリングが光る。
僕の心臓が大きく跳ねる。
先輩はそんな僕を意味深な表情で見つめて、ふふふと笑った。