第2幕
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[Act 2, Scene 18]
街が大きく破壊された、その翌日。
尾崎紅葉は久方振りの外出をしていた。先日の騒動など見知らぬふりとばかりに空は澄み渡っている。その青へ身を突き刺した高層建築物へ、紅葉は向かっていた。
ウィン、と開いたドアの向こうに見えた光景に、目を伏せる。
そこは一階フロア。来客を快く出迎えるような吹き抜けの広い空間は見慣れたもの。けれど今、その広々とした床には黒い死体袋が整然と並べられている。
その痛々しい光景を見つめている人が、二人。一人は部下の死に心痛める青年、もう一人は医者。
「――おや、紅葉君!」
死体に目を向けていた森が紅葉に笑顔を向けてくる。
「探偵社に捕まったと聞いたが……無事の帰還何よりだ」
「帰還というより追い出されたという方が正しいやもしれぬなあ」
言い、紅葉は袖口から手紙を取り出す。まさか幹部となった後に手紙のお遣いなどをさせられるとは思わなかった。太宰は人遣いが荒い。
けれど、そんな彼を切り捨てられない理由が紅葉にはある。
――鏡花。
愛しの少女に過去の自分を重ねることが正しいかはわからない。けれどそうしてしまうのは、そして苦痛であるとわかっていながら彼女を闇に戻そうとしたのは、彼女が愛おしいからに他ならない。この不本意な伝達任務も彼女のため。
太宰が鏡花を救い出し光の下に居場所を与えてくれるのを信じて待つしかない。例え彼女が自分のそばにいなくとも、彼女が幸せならばそれで構いはしなかった。
「手紙?」
紅葉が差し出したそれに、森は不思議そうな顔をする。
「太宰からのではないぞ。探偵社の社長からじゃ。――茶会のな」
瞬間、森の表情は組織の長のものになる。鋭利な目つき、感情とは裏腹に吊り上がる口端。
「……なるほど」
呟いたその声は低い。
「そう来たか」
「行くのかえ?」
「せっかくのお誘いだからね」
手紙を受け取り、森は人の良い笑みを浮かべる。
「それに、絶好の機会だ」
血の香りのする発言。どこまでも闇に染まった己の首領に、紅葉は笑む。機会は逃さない。それが現在の危機を脱するための密会の誘いであったとしても。
「ところで紅葉君、君はずっと探偵社に囚われていたわけだが」
その次に発された人の名に、ぴくりと中也が反応する。
「クリス・マーロウという女性を見たかね? 亜麻色の髪が特徴的な外国人だ」
「……いや、知らぬのう」
「なら良い。一つ疑問が解けた」
くるりと背を向け、彼は動かない部下達を今一度見渡す。
「――彼女は探偵社の人間ではない」
「そしてギルドの人間でもありません」
中也が森を見上げる。
「調査部隊の報告では、あのような者は確認されませんでした。……どうしますか」
「手は打ってある」
人差し指を立て、森は朗らかな声で言う。けれどその背から窺える彼の心境は朗らかとは遠く離れたものであることを、紅葉は察していた。
彼は敵に対して容赦しない。それがポートマフィアの、今のこの組織の首領のやり方。
「敵は残さず排除する。ギルドも、小さなネズミもね」