第2幕
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***
トウェインはビルの屋上で街を見下ろしていた。スコープを覗き込み、ギルドが雇った人間達の動きを眺める。港近くの倉庫街に拠点を置いている彼らは、荒くれ傭兵とはひと味違う。武力より頭脳を発揮するタイプの集団だった。今はトウェインの指示の下作戦を遂行している。
「今回は監視だけかあ。狙撃したかったな」
〈こっちの準備はいつでもオーケーだぜ。な、ハック〉
〈しかし命令に背くわけにもいかないでしょう、トム〉
ひょこ、とトウェインの左右に手のひらより小さな小人が姿を現す。トウェインの異能力による異能生命体だ。
「まあねえ、狙撃の腕を見せたいのは山々だけど、一応身内である彼らを撃つわけにはいかないし。『トウェイン大活躍日記』に仲間を撃ちました、なんて書けないからねえ」
〈では今回は出番なしですか〉
〈用があったら呼べよな! ハックと一緒に撃ち抜いてやるからさ!〉
フッと二体は姿を消す。彼らによってトウェインは狙撃の命中率を限りなく百パーセントに近付けることができる。つまり百発百中だ。最高にクールな芸当、しかしそれを発揮できないというのはなかなか身に堪える。今日の活躍は日記にどうやって書こうか。
日記の内容を考えながら、スコープを再び覗き込む。探偵社の電波を傍受し、逆探知をしかけている彼らはやがて見つけ出した探偵社の本拠地を連絡してくるはずだ。
今回の作戦は主に二つにわかれている。第一作戦は街の爆破及び危険物質の強奪を主軸とした、街の破壊行為だ。上手くいけば物理的にも治安的にも街を混乱させることができる。街を礎に細々と生活している探偵社とポートマフィアにとって街の秩序崩壊は大きな痛手になるはずだった。
しかしそれは何者かの手によって未然に防がれている。
その「何者か」を特定するために、トウェインのボス――フィッツジェラルドは第二作戦を利用することにした。第二作戦の主目的は「探偵社の本拠地特定」だ。彼らの通信機の逆探知、それを今トウェインの監視している組織が行っている。
上手くいけば探偵社の秘匿された本拠地がわかり、上手くいかなければ「何者か」の特定ができる。第二作戦で使われているのは高度な技術だ、かなりの腕がなければ介入することすらできない。けれどフィッツジェラルドが予想している相手はそれができる。モンゴメリの証言では彼女は探偵社側についているらしいから、もし「何者か」が彼女だったのなら必ず何かしてくるはずだ。
――彼女がこちらの策に気付き探偵社を見捨てなければ、の話だが。
「ま、気付いてはいないでしょ。気付いてたらこの街から逃げてるか、ボスを殺しに行くだろうし。あの子がどこかの組織に肩入れしているっていうのが僕には信じ難いけどね」
トウェインの脳裏には亜麻色の髪の少女が思い出されている。あの子が敵に回っているとしたらかなりの強敵だ。狙撃に関しては誰にも負けない自信があるものの、情報操作と破壊に関してはギルドの誰もがあの子に敵わないだろう。
『こちらO-AG1』
そばに置いていた通信機に連絡が入る。スコープの先では人間達のうち一人が通信機を口元に近付けていた。見つけたか。
「はいはーい、こちらマーク・トウェイン。どうぞー?」
『逆探知成功しました』
「うん了解! ご苦労様! で、どこって出たの?」
『それが……』
「うん」
『ここです。この倉庫街の南端の……』
「ありゃりゃ?」
不味い予感がする。これはボスの言う「悪くないが良くもない結果」が得られたパターンかもしれない。
『罠でしょうか?』
「罠だね。十分に気を付けてよ。今にきっと」
彼らが来るよ、と言い切る前に通信機は雑音を吐き始めた。おやおや、とスコープを覗けば通信相手の男は地面に伏している。そのそばには金髪を束ねた眼鏡の男。他にも三人ほどが集結している。一人は我らがボスがご執心のタイガーボーイだ。どうやら探偵社の方が一枚上手だったようである。
「あ、ボス?」
通信機の先を白鯨にいる上司に繋げる。
「作戦失敗です。――クリス・マーロウはこの街にいますよ」