第2幕
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[Act 2, Scene 13]
日々は着々と過ぎていく。それは戦争が行われていようとも、そこが異国の上空であろうとも、それが空中要塞の中であろうとも同様だった。
探偵社、ポートマフィア、ギルドの三社による異能力戦争が開始されて数日。ギルドの拠点、白鯨は巨大な鯨の形をした飛行艇だ。それはその機械じみた外見とは裏腹にゆったりと宙に浮き、その表面はステルス機能によって外部から隠匿されている。白鯨はギルド構成員メルヴィルの異能生命体だが、内部は機械化が進み、生命体というより機械船舶と化していた。その中を往復するのは戦闘員だけではなく、大勢の作業員も走り回っている。
「おいチビ!」
他の船員と共に荷運びをしていた船員がそばにいた小柄な仲間を呼ぶ。ぼんやりと壁によりかかっていた彼は、のんびりとした様子で彼らの方を見た。
「さぼんじゃねーぞ!」
怒鳴られ、しかしチビと呼ばれた彼はのほほんと片手を振ってみせる。
「さぼってないさ、休んでいただけ」
「それをさぼりって言うんだよ! お前の直属に言いつけるぞ! ほら、こっち来い!」
「メルヴィル様に言いつけるのは止めて欲しいかなあ……ああ、めんどくさい」
「お前やっぱりさぼってたんだろ!」
怒鳴る船員を気にも留めず、チビは大きく欠伸をした。この、と苛立ちを露わにする船員の横で、作業を進めていた一人が肩をすくめる。
「僕もチビみたいに堂々とさぼりたいよ……羨ましい」
「んじゃ今度一緒に船内を探検でもする? 他の人に見つからないようにするのすっごい楽しいしおすすめするよ」
「お前らなあッ!」
突っ込まれ、チビは仲間達へ肩をすくめた。
「怒鳴り過ぎると禿げるよ?」
「何? 本当かよ」
「本当本当。何でも怒声が頭蓋骨を震動させて、毛根を弱らせるんだとか」
「な、なるほど……?」
怒鳴っていた少年がそっと自身の頭を撫でる。釣られて周囲にいた仲間達も、頭部へ手を伸ばしていた。その様子を一通り眺め、チビは一言付け加える。
「嘘だけど」
「嘘かよ!」
切れの良い突っ込みにチビは満足そうに笑う。緑の混じる青の目が、悪戯の成功した子供のように輝いた。
「うんうん、そういう反応って良いよね。というわけで休憩に入りまーす」
「あ、ちょッ、待てチビ!」
怒鳴り声にひらひらと手を振りつつ彼は背を向けた。軽い足取りのまましばらく廊下を歩く。しばらくしてその歩調は落ち着きを宿していった。まるで先程までの調子が冗談だったかのような、ゆるやかな変化。
やがてその足は一つの扉を前に止まる。三回のノックの後、ドアノブに触れて部屋に入った。
「仕事はどうかね」
部屋の主が、白髭に微かな笑みを浮かべて来訪者に尋ねる。後ろ手で扉を閉め、船員は肩を竦めてみせた。
「楽しいよ、メルヴィル。とてもね」
ふ、とクリスは微笑む。
「あなたに迷惑はかけないよ。安心して、戦争の終わりを待っていれば良い。わたしがこの戦争を――フィーを止める」