第2幕
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***
与謝野は勢いよく扉を開け放った。見慣れた探偵社はいつもより人が少ない。それもそうだ、今、鏡花の携帯電話の着信信号を受信し国木田達が急行している。
「ッたく、これじゃあ人員不足にもほどが……!」
「どうかしましたか?」
突然の声に、与謝野は驚いてそちらを見る。そこには些か動揺した少女と、その背後に立つ社長の姿があった。
「……クリス、それに社長」
「何があった」
奇妙な組み合わせだ、と思う間もなく福沢が鋭く問うてくる。与謝野は言葉を探した。しかしどれを使っても、福沢が黙っていないと目に見えている。
仕方なしに与謝野は事実をそのまま伝えた。
「さっき出て行った国木田と賢治だけど……どうやら、敵襲に遭ったらしい」
「ポートマフィアか」
「いや、ギルドだね」
瞬間、クリスが息を呑んだ。与謝野は思わず彼女を見つめる。
クリスは探偵社に遊びに来る一般市民だ。会話の内容を把握しきれないはず。そもそもこの街の民なら、ギルドなどという単語よりもポートマフィアという単語に反応する方が自然だろう。
――なぜこの少女は、ギルドという言葉に反応したのか。
「クリス?」
「……相手は、誰が」
「いや、そこまでは情報が来てないね。人を集めて行こうと思ってたんだけど、見ての通りさ」
「わたしも行きます」
クリスが自身の胸に手を当てて申し出てくる。その必死さに、与謝野は違和感を覚えた。
だから、訊ねた。
「どうしてだい?」
人を助けるのに理由など必要ない。けれど、訊ねてしまった。
「……軽い応急処置くらいならできます。少しは、お手伝いができると思いますから」
少しずつ言葉を探しながらクリスが答える。その様子を見、与謝野は頭を強めに振った。
彼女の真意は後だ、今は人命を優先しなければ。
「わかった、助かるよ」
「はい」
クリスが頷く。その背後で福沢が感情のわかりづらい真顔でクリスを見つめていた。その眼差しに、微かな揺らぎを見出す。
――何かを躊躇うような、戸惑いの含まれた揺らぎ。
珍しい。そもそもこの二人が一緒にいるところを初めて見た。普通ならば顔を合わせないであろう、探偵社社長と一般市民。その二人がなぜ。
疑問は尽きない。
けれどそれに拘るのは今ではない。
「行ってくるよ、社長。全員、新品に仕立て直してやるさ」
福沢に一言告げ、外へと駆け出す。クリスが後に続く。福沢の目が同情のようなものを宿したのはきっと見間違いだろう。