第2幕
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***
「ホーソーン……」
頬がアスファルトに押し付けられる感覚で目が覚める。体を起こしてみれば、周囲には敦達の他にもナオミや賢治の姿があった。どうやら敦達がモンゴメリに勝ったらしい。
「クリスさん、大丈夫ですか……?」
敦がそばへ駆け寄ってくる。その表情には相手への心配の他、何かを探るような様子も窺えた。クリスとモンゴメリの関係を気にしているのだろう。誤魔化さなければ、と頬についたアスファルトの欠片を払い落としてのんびりと欠伸をした。体の凝りをほぐすように伸びをする。
「うーんよく寝た」
「寝てたんですか!」
「ついうとうとしちゃって」
あの状況でよく、と敦が顔をひくつかせる。と、彼の目が誰かを捉えた。つられてそちらを見れば、モンゴメリがうずくまっている。
彼女は失敗したのだ。フィッツジェラルドが彼女をどう罰するのかは知らない。無責任に放り出すことはないと思うが。
「お嬢さん」
敦がモンゴメリに駆け寄ったと同時に、ふと声をかけられた。見上げれば、あの中年男性が金髪の女の子を連れて立っている。目的の愛し子は無事見つけられたらしい。
「お怪我は?」
「いえ、特には」
立ち上がり、彼の目を見返す。言葉なく、視線を交わす静寂。
見えない手ではらわたをかき回そうとしてくるかのような沈黙に、クリスは逃げるように首を傾げてみせる。
「……何か?」
「ああ、いや、一言声をかけておこうと思ってね」
頼りなさげに視線を泳がせ、しかし彼は人の良い笑みをこちらに向けてくる。
「君は、彼らの何だい?」
「と言うと?」
「赤毛の彼女と知り合いのようだったが?」
暗い色の目がクリスを映す。じっとそれを見つめ返し、ふとクリスは微笑んだ。
「いえ、特には。……知り合いの知り合いと言ったところです」
「そうか。ああいや、気を悪くしないでおくれ。少々気になってしまったものでね」
気弱さを体現するかのように両手の指の腹を合わせ、男性は「それでは」とクリスへ背を向ける。今度は敦の元に向かうらしい。その後ろをついていく少女は丸い目をクリスに向け、にっこりと微笑んだ後、背を向けて男性を追いかけた。二人の背を目で追う。
「クリス!」
バッとナオミが飛びかかってくる。その後ろから、谷崎と賢治が歩み寄ってきた。
「ナオミさん、賢治さん。ご無事だったんですね」
「クリスちゃんこそ怪我はない?」
谷崎がいつもの優しい顔で尋ねてくる。ナオミのこととなると豹変する彼は、探偵社の中でもとびきり厄介だ。そう思いつつ、思考を微塵も読み取られない満面の笑みでクリスは「おかげさまで」と返す。
「谷崎さんもご無事なようで、良かったです」
「なんとかね。……えっと、クリスちゃん、あの」
「谷崎さん! ナオミさん!」
谷崎が何かを言おうとする。しかしそこに割り込んでくる声があった。敦だ。あの中年男性との会話も終わったのか。しかしその表情は切迫している。
「鏡花ちゃんが、突然……!」
見れば探偵社の知り合いだろうか、和装の少女が地面にうずくまって震えている。皆がその少女に駆け寄る中、クリスは一人佇んだ。そして、ふと一方を見遣る。
その方角は、かのお医者様が歩いて行った方向。
ちらりと敦達の方へ視線を向けた後、クリスはそちらへと駆け出した。