第4幕
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***
眠りから覚めるような感覚だった。
ふ、と開けた視界はぼやけていた。数度ゆっくりと瞬きし、それが空の青であることを知る。屋根の一部が崩れ落ちた建物が周囲を囲む、日光の差さない路地。どうにか体を横向けて腕を地面につけ、上体を起こす。
「……う、あ」
痛みが全身を包み込んでいる。もはや何も感じていないのではと疑うほど、今のクリスには痛みしかなかった。
かすむ視界で周囲を見渡す。地面が僅かに抉れ、瓦礫で覆われていた。クリスの落下の衝撃で砕けたのだ。クリス本人はフィッツジェラルドとの訓練の甲斐あって無意識に異能を発動、風でクッションを生成し衝撃を和らげたのだろう、墜落を原因とした怪我はないようだ。どのくらい意識を失っていたのかはわからないが、粉塵がまだ宙を漂っているところを見るとさほど時間は経っていないらしい。
胸元を押さえる。血が指につく。天空カジノでホーソーンの攻撃を受けた箇所は未だに生々しい赤を保っていた。空中戦の最中に圧力をかけて止血処置はしていたものの、やはり戦闘中だったためか不完全だったらしい。しかし両足に怪我はない。痛みを【マクベス】で一時的に軽減させれば、戦えずとも移動することはできそうだ。
近くにホーソーンの姿はない。気配もない。「逃がしてしまった」というよりは「逃げ切れた」と表現する方が正しいだろうか。兎にも角にも事態は切り抜けた。この騒ぎを元に誰かがここへ来る前に、移動してしまおう。
そう思ってどうにか立ち上がろうとしていた時だった。
――悪寒。
ぞくりと息が止まる。
それは戦意によく似ていた。殺気にも似ていた。緊張を強いる、鋭い気配。
敵と呼ぶべき存在が纏うもの。
それは、クリスの背後から歩み寄ってきた。
「すみません、少々お時間よろしいでしょうか」
落ち着いた、丁寧な男性の声。この荒れた状況を見ても冷静だということは、警察関係者か。
舌打ちを堪え、クリスは戸惑いを込めた様子でそちらを振り返った。
男が一人いた。軍帽、軍服、軍靴、腰に洋風の長剣。閉じられた目は笑みを浮かべ、整った顔立ちが彼を優秀で冷徹な性格に見せている。
「特殊制圧作戦群甲分隊、通称《猟犬》の条野と申します」
親しみを覚えさせる――しかしおぞましい違和感を宿した柔らかな声で言い、彼は瓦礫の中のクリスへと微笑んだ。