第4幕
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十四年前の大戦直後に作られた民間娯楽施設がある。天空に位置し、その巨体にも関わらず科学を駆使して宙に留まり続けている高空浮遊施設。
天空カジノ。
宙に存在するが故にいかなる国家の警察権も適用されない独立国。地上とは飛行バスで行き来が行われているだけの、完全浮遊の小国。そこに王はいる。天空カジノにおけるあらゆる権限の全てを掌握している男、カジノ支配人になるために生まれてきたとすら称される若き者。
彼は施設内の廊下を歩いていた。静かな、客室フロアだ。その一部はとある物体を床下に秘めているが、それを除けば至って普通の、そして非日常的な光景が窓の外から眺められる極上の空間。
空しか見えない窓を横目に、シグマは歩みを進めていた。向かう先はさらに一つ上の階層。目的はない。
予感がしているだけだ。
「関係者以外立入禁止」の文字の看板の横を通り、機械じみた内装が目立ち始めた中を行く。この先にあるのは操舵室などの天空カジノの心臓部だ。厳重な警戒態勢が敷かれているが、カジノ総支配人であるシグマが入れない場所などあるわけもなく、警備員はこぞって無言のままシグマの通行を見守っている。
覚えきった通りの道を行けば、扉が目の前に現れた。堅固な作りであることが一見にしてわかる、外壁を塞ぐ扉。解錠して取っ手を引けば、ぶわりと突風が日光と共に雪崩れ込んできた。暴風が体を吹き飛ばそうとしてくる。それを必死に耐えつつ、眼前を睨み付ける。
外だ。椅子一つ落とせば地上を破壊できるほどの高度の空が、眼前に広がっている。平たい鉄板が床のようにある程度敷かれているものの、客室フロアの天井であるそこは人の通行を想定した場所ではなく、柵も手すりも何一つない。
青い空、目の前を行く雲。
そして――その中に佇む人影。
亜麻色の髪が風にそよぐ。腰のポーチを隠す丈の上着がはためく。相当な風圧がそこにあるはずだった。しかし彼女は平然とそこに立っていた。
「……来たか」
扉の横の手すりから手を離せないまま、呻くように声をかけた。全身を覆うような空を見渡していた彼女が、ふとこちらへと振り向いてくる。
決意と不安に揺れる青の双眸が、暴れる亜麻色の下から覗く。
「……久し振り、シグマさん」
少女は――クリス・マーロウは笑みもないままにシグマを見つめていた。