第4幕
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***
異能刑務所ムルソー。
それは存在自体が国家機密、収監された者との面会は不可能、脱獄も救出も非現実的な完璧な檻。立方体状の檻房は個々に浮遊し、その堅固さを物語っている。
多くの異能犯罪者が収監されているその一部、隣り合う二つの箱で男は向かい合っていた。
「まさかここまで来るとは思いませんでしたよ」
言い、ドストエフスキーは向かいの檻房へと微笑んだ。
「とはいえ私が何もして来ないとは思っていなかっただろう?」
同様の笑みを浮かべているのは太宰だ。互いに、普段とは異なり収監者としての衣服を身につけている。ドストエフスキーは世界を傍観するために、太宰はドストエフスキーへ真正面から立ち向かうために、各々自らの意思でこの完全孤立の刑務所へ収監されていた。
「あなたといると退屈しませんね」
「光栄だ」
二人の目には広大なチェスの盤面が映っている。不可視の戦場、白と黒の駒が整然と並ぶ盤上、二人の王は対峙していた。
「それで、ここに来て何をしようと? 僕の駒は既に動いています。次はあなたの番ですが」
「わたしの一手は既に動かした。フィッツジェラルドの暗殺阻止だ」
「ああ、そうでしたね。ではぼくの番ですか……その前に一つ、確認しなければいけないことがあります」
「確認?」
予想しなかった言葉なのだろう、太宰は眉をひそめてドストエフスキーを睥睨した。その視線にドストエフスキーは「ええ」と簡素に答える。
「駒ですよ」
「駒?」
「色のない駒です。白でも黒でもない駒が一つ……知っているでしょう?」
太宰の顔に変化はない。ふわりと片手を広げ、ドストエフスキーは微笑む。
「あなたがぼくから守った駒ですよ。連続猟奇殺人事件の際、あなたが同僚を使わなければ彼女はぼくの仲間となり、この計画に加担していたはずでした。共喰いの時もそうでしたね。ぼくは彼女に振られてしまって」
「……”彼女”?」
太宰は呟いた。突然何の話だと言わんばかりの様子だった。ドストエフスキーはそれ以上何も言わず、ただ微笑んでいる。太宰は怪訝そうな顔のままその笑みを見つめ――やがて、徐々に事態を把握していった。驚愕と焦燥がじわりじわりと太宰を覆っていく。それと対照的にドストエフスキーの笑みは深まっていく。嬉しげに、満足げに。
目の前の光景を楽しむかのように。
「……それは」
太宰は呆然と口を開いた。
「誰のことを言っている……?」