第4幕
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***
雨が、降っていた。
あの日と同じ雨だ。とめどない、血の臭いを掻き消すかのような――水。
呆然とクリスは床に座り込んだ。
「……ぅ、あ」
声が出なかった。
雨音は室内で鳴り響いていた。床が、壁が、その場にいる全員の全身が濡れそぼる。
フィッツジェラルドが足元を見つめていた。そこに落ちていた、薄れた血痕と万年筆を見つめていた。
雨が降り続いている。
「……散水装置、だと……?」
呆然と彼は呟く。敦もまた、呆然と立ち竦んでいる。何が起こったのかを説明したのは、部屋へ駆け込んできた小さな足音だった。
鏡花ちゃん、と敦がその名を呼ぶ。クリスもまた、そちらへと顔を向けた。極度の緊張に加えこの部屋まで走ってきたのだろう、彼女にしては珍しく息が上がっていた。
「君は……あの時のリトルプリンセスか。君が、これを」
「散水装置を起動した」
「なぜ血の……ホーソーンの攻撃があるとわかった」
「それはわからなかった。けど、ディスプレイに文字が出て」
「ディスプレイだと?」
頷き、鏡花は続ける。
「階下の部屋で、一斉に警告文が――『散水装置ヲ起動セヨ』と」
警告文。
誰かが、この状況を先読みし警告してきたというのか。
誰が。
――そんなことはどうでも良い。
呆然と首を回す。フィッツジェラルドがこちらの視線に気が付き、視線を合わせてくる。
目が、合った。
生者の目が。
「どうしたクリス、今にも泣き」
声を最後まで聞くことはできなかった。
立ち上がるよりも先に駆け出す。転がるようなそれのまま、目の前の姿にしがみついた。そこに熱がある。消えることのない、切り刻まれ宙に散ることもないものがある。
赤の散らない友が、雨の中で生きている。
生きている。
「クリス……?」
らしくなく戸惑った声が名前を呼んでくる。幻聴ではない声が、呼んでくる。
ぐ、と服を掴む手に力を込める。額を押しつける。そこにあるぬくもりを、確かめる。
そのまましがみついていた。
しばらく、そうしていた。