第4幕
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[Act 4, Scene6]
会議室を出、クリスはビルの外へと向かった。少し走れば、探していた背中を見つける。
「乱歩さん」
呼びかけ、しかし足を止めないその人の隣に並ぶ。乱歩はこちらを見ようともしなかった。クリスがついてくることをわかっていたのだろう。代わりに大きなため息を肩ごと吐き出してくる。
「……君ってさ、馬鹿なんじゃない?」
「乱歩さんを追いかけると嘘を言った後この街から逃げ出すのも良かったんですけど、今更な気がして」
「そうじゃなくて、いやそれもあるけど」
足早にどこかに向かいながら、乱歩はぶつくさと続ける。
「君は探偵社員じゃない、探偵社が滅んだ後のことなんて君には関係がない」
「……確かにそうですね」
明確な理由は言わないまま、クリスはそう答える。それだけで十分だったのだろう、乱歩は再びため息をついてからようやくこちらを見遣ってきた。
「天人五衰の事件を探偵社へ依頼してきた人間について調べろ」
その眼差しは全ての人間の体内を暴く刃物のように鋭い。
「天人五衰の事件の資料をまとめた奴、事件の現場に居合わせた奴、全員について探れ。これが虫太郎君の言う”大きな仕事”で、これを理由に探偵社が滅ぶなら、これをでっち上げた奴が必ずどこかにいる」
「了解しました」
「僕は梓弓章について調べる。あの弓をもらったからこの仕事が来た、無関係とは思えない」
頷き、乱歩と別れる。待ち合わせ場所と時間は決めてあった。何か新しいことがわかれば、即座に連絡を取ることになっている。乱歩は一人で政府関係施設に向かった。普段の乱歩は推理と関係のない事柄を覚えようとしないが、実のところ電車の乗り方どころか路線図も時刻表も記憶しているので移動についての心配は一切していない。「やらない」と「やれない」の違いは大きいのだ。
さて、とクリスは大通りを逸れて小道へ駆け込む。そして足元に風を発生させ、跳躍。一気に建物の屋上へと到達する。そのまま屋根を次々と渡り跳びつつ、目的地へ。
「要は内部に潜入できれば良いわけだからね」
とん、とん、と鳥が舞い降りるような軽い音のみで屋根を、電柱の頂点を、屋上のフェンスを跳んでいく。時折地上に影が落ち、それを見かけた人々が不思議そうな顔でクリスが去った青空を見上げる。
とん、とそこへ辿り着き、クリスは足元を見下ろした。四角い形の建物の、その屋上。入り口には二人の警官が出入りする人々をじっと見つめている。
軍警支部が入っている政府関係施設だ。乱歩が欲しがった情報は内部情報だ、いくら探偵社員とはいえ簡単には手に入らない。少しばかり法に触れるが、確実な方法で取りに行くのが良いだろう。
「さて」
クリスは小型パソコンを取り出した。まずはいわゆるサイバー攻撃でネットワークセキュリティに適当に穴を開ける。おそらくそれに反応してセキュリティシステムが警戒態勢へと切り替わるはずだ。建物内のシステムのほとんどが使用不可能になる。そしてその警戒態勢の解除はおおよそ人の手で行われるものだ。その場合、連携している外部の専門技術者を呼ぶことが多い。それに変装すれば簡単に内部ネットワークへと潜入でき、しかも工作も行える。大胆なやり方ではあるが失敗したことは今まで一度もない、技術と演技力が試されるやり方だ。
つまり、クリスの得意分野である。
カタカタとパソコンを操作する。このやり方が正しい方法ではないことなど、とうの昔から知っている。自分のこの技術は本来、こうして使うべきものではないこともわかっている。
それでも、と湧き上がる感情を押さえつけるようにパソコンの画面を睨み付ける。
――信じろ。
あの言葉のためならば、わたしは何だってしてみせる。