第4幕
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探偵社に着き、国木田が入り口の扉を開ける。おはようございます、と律儀に室内へ挨拶した国木田へ飛んで来たのはそれへの返答ではなく、悲鳴だった。
「国木田さん助けてください!」
敦が青ざめた顔で駆け寄ってくる。
「……何だ朝っぱらから」
「敦さん、おはようございます」
「お、おはようございます……ってそんな場合じゃなくて!」
びしりと敦が室内を指差す。そこにいたのは、言わずもがな全身に包帯を巻いた茶色のコートの男である。
「やあ、おはよう国木田君」
それは至って普通に片手を上げてにこりと笑いかけてきた。見たところ敦が慌てるような様子は微塵もない。ないが、その額には大きなたんこぶができていた。どこかから落下して頭を打ったのだろうか。
「……その手にあるキノコは何だ、太宰」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれたね国木田君。懐かしいだろう?」
「また食ったのか」
「まだ食べてない」
太宰は手にしていた怪しげな色味のキノコを愛でるように撫でた。
「気付いてしまったのだよ国木田君。以前はこれを生で食してしまった、だから自殺は失敗した……そこで私は気付いたのだよ国木田君! なら、焼けば良いんじゃないかなって!」
太宰の演説が終わる前に国木田は自らの席へ着いた。わたわたと太宰と国木田を見比べる敦をよそに、いつも通りパソコンを開く。その対応を見るにこの太宰は放置して良いものらしい。
「というわけでバーベキューだよ敦君! 火を焚くんだ! キャンプファイアー! 派手に行こうじゃないか!」
「いやちょっと待ってくださいってば太宰さん! ここで火を使うのは危ないですって!」
「大丈夫ライターならある!」
「ああッ、また盗られてる……! さっき取り上げたはずなのに……!」
「燃えろキノコ! おやこんなところにちょうど良い紙切れが!」
「それは書類です太宰さん!」
賑やかだ。
鑑賞するように眺めていたクリスへ、ふと国木田が手招きしてきた。歩み寄ると国木田は太宰の机からペンを一本取り、渡してくる。きょとんとしつつそれを受け取った。
「……これだけですか?」
「少しの間黙らせれば十分だ」
頷き、クリスは太宰へと向き直った。机の上にあった書類を無造作に掴み上げ、ばら撒こうとしている。敦が必死にそれを取り上げては安全な場所へ運んでいた。が、その隙に太宰は他の書類へ手を伸ばしている。きりがない。
クリスは手にしたペンを見、指先で軽く持った。そして太宰へと目を移し、腕を振り上げるようにペンをそちらへ投げつける。
「よッと」
――ヒュッ!
ペン先は違えることなく暴れ回る太宰の首元へ突き刺さった。
「あひゃ」
太宰が奇妙な声を上げる。そしてぐるりと白目を剥き、四肢を放り出してどっかりと床に倒れた。
「え、え、え……?」
敦が手を中途半端な位置に保ったまま呆然とその様子を見つめる。
「良し」
国木田が眼鏡を押し上げながら言った。
「これで通常通り仕事ができる」
「本当にあれだけで良かったんです?」
「毒は解毒までの時間がかかる。その間の奴の仕事を他の人間が肩代わりせねばならん。非効率的だ」
「なるほど」
考えてみれば確かにそうか。
「じゃあわたしも仕事を始めますね」
「ああ」
背を向け、事務員が集う事務室へと向かう。背後で敦が「……僕より太宰さんの扱いに手慣れてる」と呟いていたと知るのは、かなり後のことだ。