第4幕
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重く大きなものが液体の中に落ちた音を聞く。その音はやがて遠のき、耳を塞がれたかのようなくぐもった沈黙が訪れる。
気泡が海水を巻き込んで上昇していく、その表面に陽光が微かに差し込んで七色に煌めき、陽光を映した水面に消えていく。綺麗だった。はっきりとした何かが見えるわけでもない、目の前にあるのは高層ビルも船舶も橋もない、無の青だ。
髪が無造作に広がる。薄手の合わせが水にたゆたい肌を優しく撫でてくる。呼気が青の中に穴を開け、ゆらゆら揺れながらも急速に自分から離れていく。
わたしだけが、沈んでいく。
これで良いのかもしれない。朦朧とした思考がそう言う。このまま沈んでしまえたら、呼吸もできないまま意識を手放したのなら、きっとわたしはわたしではなくなる。人はいつか死ぬし、わたしはいつか全てを失くす。全てを手放すことが決まっているのなら、今ここで全てを諦めても大差ない。
目を閉じる、耳を澄ます。静かだった。ぼんやりと思考が輪郭を失っていく、その曖昧さが眠りのいざないに似ていて心地良い。
こぽ、と気泡が遠くに消えていく。死ぬなと叫ぶ誰かの声はもう聞こえない。
静かだった。誰の声も誰の願いも聞こえない。何も思い出せない。わたしの思考だけがわたしの中にある。
泣きたくなるくらい、わたしの中にはわたししかいなかった。
だから、嬉しかった。
今ここでなら、わたししかいないわたしなら、あなたにあの一言を言える気がしたから。