第3幕
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防御壁を揺らす音波が途切れる。着地と同時に壁を消去、駆け寄り手を地面について下半身を旋回、足払いを仕掛けた。突然背をかがめたクリスの動きに対応が遅れた男は難なく足を躓かせ、体勢を崩す。
地面に手をついたまま足を突き上げ、音響銃を上空へと蹴り飛ばす。その動きと共に全身を跳ね上げて両足で着地、銃を失い宙に泳いだその腕を掴んで引き、がら空きになった懐へ右膝を突き込む。そして右半身を引くや否やすぐさま左方向に全身を捻り、右足をその腹部へと叩き込んで男の胴を蹴り飛ばした。
「がはッ!」
男が吹っ飛ぶ。風の補助を受けた蹴りは男を骸砦の外壁へ激突させた。轟音が窪地に木霊する。粉塵が勢いよく吹き出す。
ずるり、と人影は背中を外壁に埋めたまま脱力し座り込んだ。立ち上がってその姿を見、胃液を飲み下すような呼吸を数回繰り返す。
確かめなければいけなかった。この確信が間違いだという証拠が、欲しかった。
そばへと歩み寄り、手を伸ばす。相手の顔を隠している帽子のつばを掴んだ。
「……ッ」
一瞬の躊躇いの後、帽子を取り上げた。つばに隠されていた顔が露わになる。埃がこびりつき、擦過傷から血がにじむその横顔へ、クリスは顔を歪めた。
「……どうして」
見慣れた顔だった。いつも名前を呼んできて、いつも練習の相手をせがみ、懸命に役作りに専念していた。明るい声で場を盛り上げ、かと思えば舞台の上で照明を一身に浴びたその姿は物語の登場人物そのもので。
可愛い後輩だった。もっと上手くなって欲しいと思っていた。ただ、それだけだった。
「……いつから、わたしを?」
「初めから」
頭から血を流したまま、ヘカテはそう言って、泣きそうな笑顔を浮かべた。
「劇団に入った時から、あなたの監視が目的だったんです。――はじめまして、クリス・マーロウ」