第3幕
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***
外出から戻ってきた与謝野は一人ため息をついていた。
「……全く」
目の前には、ベッドに横向きに眠るクリスと、彼女の隣で椅子に座りながら舟を漕ぐ国木田。ベッドの端に放られた少女の手には国木田の手が覆うように重ねられ、その指先は彼女によって軽く握り込まれている。
「……呆気なく”よろしくお願いします”だなんて言ってきたから何て言い返してやろうかと思っていたけど」
作業机の上に眠気覚ましのドリンク数本を入れたコンビニ袋を静かに置き、与謝野は医務室に備えてある毛布を手に取った。そっと国木田へそれをかける。
「……医療は技術さ、誰にでもできる。けど、相手を思う心はアンタ一人だけのものなんだよ」
毛布をかけても微動だにしない国木田に微笑み、そして与謝野はベッドの上へと視線を滑らせる。クリスの顔はまだ赤いが、眉間のしわは減っているように思う。この調子で熱が引けば、今夜はもう大丈夫そうだ。それより、この二人が目を覚ました後のことが気になる。動画でも撮っておこうか。冗談だが。
与謝野は二人の眠るベッドの方を見遣る。過酷な身の上であるクリスと理想主義者である国木田、二人は互いを気遣いすぎている。口に出さずともわかり合っている敦と鏡花とは違い、クリスと国木田は口に出さなければすれ違い続けるだろう。今日がその食い違いの解消の一端になったのなら良いのだが。
「ま、そこまでは世話できないか」
独り言で結論づけ、与謝野はドリンクを一本掴み取る。蓋を捻れば、それはカシュッと良い音を立てて冷気を立ち上らせた。