幕間 -DEAD APPLE-
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
ヨコハマのある島国から大陸を挟んだ遠い地で、女性が白磁のティーカップに口を付けた。豪奢なソファに、テーブル。壁紙には細かな模様が描かれ、赤と金の美しいその部屋が彼女の身分の高さを表している。
「霧は消失、ターゲットの存在も確認できず……今回は不作でしたわ」
残念、と言葉とは裏腹に楽しげに笑う。その視線の先にはパソコン画面。霧の消えたヨコハマ上空の衛星画像、特異点指数の数値等、日本の異能特務課が一夜を通して見つめていたデータの一切が、このパソコンにも表示されている。
「国が焼ける匂いは紅茶に合いますのに。……日本の特務課に”我が国の”爆撃機の派遣を通達すれば必ず姿を現すと聞きましたけれど、今日はお会いできませんでしたわ」
ふ、とその指先をパソコンへと滑らせる。その仕草に従うように、画面は下に埋もれていたウィンドウを表示した。
どこかの監視カメラの映像だった。どこかの商店街で、人がたくさん映っている。粗の目立つその画像の一部分が、数度に渡って拡大された。
「一体どこにいるのかしらね? 可愛いネズミちゃんは」
亜麻色の髪をそよがせ、繁華街の街並みを興味深そうに見回す、その一瞬を切り取った画像。少女の青い両目はこちらを向いていない。決して視線の合わないそれへ、女性は優雅に微笑んだ。
「クリス・マーロウ――我が国の戦力として作られた破壊の異能者。その力は、わたくし達が使役すべきものですわ」
***
幾分か太陽が高く昇った、ヨコハマの街。それを見下ろしながら、ドストエフスキーは薄く微笑んだ。
「全ては余興です」
赤い龍も、死の林檎も、焼却の爆撃機も、そして――彼女も。
「……罪と罰にまみれたこの世界を終わらせるためには、やはりあの本が必要ですね。――この街に眠る、白紙の文学書が」
それは方法の一つに過ぎない。しかし現時点で最も確実な手段であることは確実だった。もう一つの手段は太宰によって飼い慣らされつつある。太宰は、彼女が愛玩動物ではなく実験動物であることがわかっていたようだ。そして、同僚が彼女を止めるよう時間をかけて手を回していた。でなければ彼女はこちらの意図通り、英国と衝突し、その存在をもって世界を覆していたに違いないのだから。
彼女は駒だ。世界という盤上に突如現れた、白でも黒でもない異質な駒。それが存在しているということはつまり、それが使われることは必然。でなければ、わざわざ盤上に置かれた理由がない。彼女はその存在が認知された瞬間から、盤上の物語に一手を与えることを約束されているのだ。その運命から逃れることはできない。実験用ネズミは死ぬまで籠の中から出られない。
「……面白くなってきました」
口元に笑みが描かれる。それは、今後の展開を楽しむ者の笑みだった。