幕間 -DEAD APPLE-
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
[Act 2.5 Scene 2]
太宰は一人、酒場のカウンターに座っていた。トランペットが上品に響く音楽を背に、グラスを持ち上げる。
「今日は何に乾杯する?」
声をかけたのは隣の席、手のつけられていない酒が添えられた空席。かつてそこにいた友人に、彼が言うであろう言葉に、太宰は答える。
「安吾は来ないよ」
それはあの日々の再演。平凡で、楽しく、永遠を感じさせた友との日常。唐突に計画的に壊されたその日々は、今も太宰の中に息づいている。
グラスを置き、その隣に置かれた物を見つめる。白と赤のカプセルと、白一色のカプセル。見た目の似たそれの中身は異なる。その二つのカプセルを摘まみ上げ、光に透かした。薬と毒の差は、飲んだ者に与えられる利害だけだ。果たしてこれは薬となるか毒となるか。
「……織田作、君の言うことは正しい。人を救う方が確かに素敵だよ」
あの日、血と硝煙と煙草の臭いが充満する場所で、彼は太宰へ言った。その言葉を違えることなく覚えている。それは導きだった。光だった。迷い子を誘う優しい手だった。太宰にとって彼の言葉は道そのものだったのだ。例えそれが仕組まれた道だったとしても。彼も自分も、誰かの手のひらの上で脚本通りに演じただけだとしても。
それでも、彼の言葉は太宰にとって真実だった。
だから、付け加えた。
「……生きていくのなら、ね」
血を思わせる赤に半分を染めたカプセルを口に運ぶ。もう一つのカプセルはポケットから取り出した円筒状のケースに戻した。これを渡してきた少女を思う。彼女もまた、同じことを考えるに違いない。それがいつかはわからないけれど、いつか、必ず。
彼女はまだ気付いていない。
席を立つ。舞台は既に幕を上げている。行かなければ。
「それじゃあ行くよ、織田作」
どこへ、とは告げず、太宰は手をつける相手のいないグラスへ背を向けた。