第2幕
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『彼をうちの社員にする』
夜の倉庫に景気良く響いた声は、違えることなくクリスの盗聴器にも届いた。虎の正体は孤児院育ちの少年の異能力だったらしい。
それにしても、とクリスは夜の街を歩きながら先程聞こえてきた突拍子のない提案を、それを発した声の主を思う。まさか盗聴器を川で流されるとは思わなかった。やはりあの太宰という男はわかりにくい。「良い川だね」という言葉一つを残して川に飛び込むような人だったとは。クリスの仕込んだ盗聴器の存在に気付いたからか、それとも偶然か――財布までもが流されていたらしいので後者の可能性が高い。何はともあれ、今度太宰に仕掛ける時のことを考えて防水性のものを買っておこうと思う。
一応国木田にも盗聴器を仕掛けておいてよかった。
「虎、か」
街の光を反射する川面を眺める。空は暗く、しかし遠くに見える街の眩しさによって星はまばらにしか見えていない。弱い光を打ち消す強い光、弱者を虐げる強者。高層建築物の窓という窓が輝きを放ち、夜という暗く淀んだ闇に星のように穴を開けている。
綺麗だ。
光はどの国で見ても変わりなく、美しさを見せつけてくる。あの人と共に浴びた太陽光も、彼らと共に駆けた夜闇の街灯も、光だ。光があるだけで人は目の前のものを見ることができる。足下を見ることができる。光があれば、人は何も見失わない。
昔、船乗りは星を標に海を渡ったという。光は標だ。だから人は己の人生を変えた人をも「光」と呼ぶ。己が目指すべきものも「光」と呼び、進むべき道を示す標とする。
――組織に追われているって言ってたけど。
探偵社の薄暗い廊下で、あの日、乱歩はクリスへと問うた。
――その組織の名は?
「……君のみちしるべは見つかった?」
この世界のどこかにいるであろう上司だった男へ、呟く。そっと目を閉じれば夜風が頬を撫でていった。
あの高慢な笑みを思い出す。あの含みのこもった声を思い出す。金と権力で全てを思い通りにしようとしたあの男を、その眼差しを、思い出す。
「君が何を成し得たとしても、わたしはギルドには戻らないよ。フィー」
声は夜風に紛れていく。