第1幕
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腕で頭を庇いながら、呆然とその光景を見つめていた。
ホーソーンの本棚には神に関する本の他にも様々な本があった。その本の中に、とある昆虫について描かれていた。尾部に光を灯す生き物だ。その光は仄かで、ささやかで、光と呼べるほど眩しさはない。けれど、確かに灯っている明かり。
それが、目の前にたくさん舞っていた。それらは弾丸を囲み、呑み込み、包み込む。そして、弾けた。
弾丸が光と共に弾ける。跡形もなく、散る。
見えたのは黒い粒が旋回する青い空だった。弾丸の姿はない。
消えたのだ。
「……は、あッ」
息が切れる。よろめき、地面に膝をついて座り込んだ。淡い光が降ってくる。その光に手を差し出して、手のひらにそれを受けた。皮膚に触れると同時に光は溶けるように消えていく。
覚えている。忘れるわけがない。
ウィリアムの異能の光だ。
「……どう、し、て」
消えた光を握り込む。
これはウィリアムの異能だ。ウィリアムは死んだ、殺した。なのに、なぜ、ここでこの光が現れたのか。
――あいつの心は、言葉は、ずっとお前の中にある。
知っている。どうしてこの光がここにあるのかなんて、わかっている。
「……そんな」
クリス、とあの優しい声が笑っている。
わたしは、奪ったのだ。あの人から、命を、幸せを、全てを。
震える手で拳を強く握り、胸に当てる。震えを隠すようにそれを抱え込んで背を丸める。
「……ウィリアム」
わたしは、君の体も心も、全てを殺して、その露わになった臓腑から光を引きちぎったんだ。
「……消えた?」
ふと、声が聞こえてきた。それは安堵の声だった。ゆっくりと顔を上げる。そして、視線に気がついた。たくさんの視線が、自分に集まっている。
「ねえ、さっきの何?」
「空気割れてた? 目の錯覚?」
「あの子が何かしたの?」
ざわざわと、突然の危機から脱した人々が現状把握に意識を向け始める。その目は全てクリスに向けられていた。たくさんの目が、そこにある。
上空からエンジン音が近付いて来る。全てを目撃したあの国が、そこにまだいる。
目が。
たくさんの、目が。
わたしを、見ている。
どくり、と心臓が引きつるような鼓動を一つ立てる。
「……い、や」
見ないで。
知らないで。
わたしに、気付かないで。
「嫌……!」
――捕まるのも、死ぬのも、知られるのも駄目だ。
逃げ続けないと、また赤が散る。
あの笑顔を汚す赤が。優しいぬくもりを宿した赤が。
「駄目……駄目、嫌、嫌……!」
視線から隠れるように頭を抱えてうずくまる。膝を立てて胸に寄せる。小さく、小さく、体を縮める。
こんなこと、望んでない。痛いのも、苦しいのも、望んでなんてなかったのに、どうして。
――良い子だね、クリスは。
あの声が、手が、頭を撫でてくる。ひだまりのあたたかさのようなその腕が、体を抱きすくめてくれる。
――僕が君を守ってあげる。
ねえ、ウィリアム。
「……助けて」
あの優しい日々に、帰りたい。