第1幕
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
銃声が震動となって体を叩く。次から次へと人が倒れていく。何も聞こえなかった。耳に蓋をしたように、水の中を漂っているように、遠くで誰かが何かをしている。
背後の男が何かを叫んだようだった。こちらの肩を掴み、しかしずるりと床に崩れ落ちる。血のぬめりを感じさせるその手触りに強く目を閉じた。
――あなたにとって、あの光の下が心地良い居場所となりますように。
コーディリアはそう言ってくれた。けれど、そうはならなかった。
光の下は地獄だ。殺さなければ殺される。殺さなければ捕まる。そしてこの身には、殺しを為す力がある。これが光の下の世界だった。わたしの舞台だった。
もう、あの穏やかで何も知らなかったひだまりの下には戻れない。
戻れないのだ。
「――上等だ」
フィッツジェラルドの笑みを含んだ声が耳に届く。瞼を持ち上げ、血の臭いにあふれかえる視界へと意識を戻す。人々の消えた観客席が、眼前に広がっていた。ゆっくりと、背後へと向き直る。
振り返った足元に、男が倒れていた。赤い液体を服や床に散らし、彼は肉を裂かれた物言わぬ人形と化している。彼の他にも死体はあった。それを呆然と見つめる劇団員の姿もあった。額を撃ち抜かれた死体、胴に大きな切り傷を負った死体。それらを恐怖しながら呆然と見つめてくるのは、劇団の同僚達だった。しかしクリスが視線を向けるとほぼ同時に、彼らはあらぬ方向へと目を逸らしてしまう。コーディリアだけが、クリスを黙って見つめていた。けれど、クリスはその視線から目を逸らす。
今彼女に向ける顔が、思いつかなかった。
コーディリアから逃げるように観客席の方へと向き直る。滅多に埋まることのない最上階で手を振っている人がいた。この血濡れた場に相応しくない明るさを匂わせるその素振りには、見覚えがある。
「……トウェイン」
「彼は狙撃手だ。百発百中のな」
「……あの距離から」
銃には精度がある。どんなに腕の良い狙撃手でも、遠い的に向かって同一の銃弾を撃つことは難しい。けれど、敵味方が入り交じる舞台へ向けて、彼は的確に敵の額だけを撃ち抜いている。並大抵の腕ではないことは確かだった。
「クリス」
名を呼ばれ、そちらを向く。舞台の上に立つその男を、見上げる。
「君を知る者はことごとく殺す必要がある。それが敵であろうが何だろうが、情報を漏らされないためには必要なことだ。痛ましいことにな。だが、唯一君が心を痛める必要のない人間が集まる組織がある。全員が優秀だ、例え英国が刺客を向けてこようと、こうして排除することができる」
足元に落ちていた銃弾を踏みつけ、背広を着こなした男は言う。鋭く両目が輝く様を、見つめる。
「それがどこか、わかるな?」
「……それを言うために、こんなことをしたの」
「誤解だ。奴らは勝手にここに来た、それを俺達が排除した。――簡単な話だ」
違う。きっと、この男がそうさせたのだ。クリスに唯一を見せつけるために、英国に唯一を見せつけるために。
お前にはここしかないのだと。こいつは俺達の物なのだと。
彼は言葉なしに見せつけた。
目を伏せる。それでも、その一対の眼差しは獲物を前にしたようにクリスを見据え射貫いている。
知っている。
わかっていた。
――わたしは、この目から、決して逃れられない。