第1幕
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全員の視線が一箇所に集まる。その先で、それは大きく目を見開いてある男を見上げていた。
青が、男を映し出す。
「あなたが、神様なの?」
ああ、と知る。
この眼差しは、青じゃない。空の青でも、海の青でもない。
緑に縁取られた、青。そよぐ木々と水面の波紋を思わせる、静かな景色。
湖畔の色だ。
「神、だと?」
フィッツジェラルドの問いに、それは頷いた。
「〈恵み〉をもたらす者、〈赤き獣〉を排する者、唯一の救世主。あなたが、その神様」
「俺はフィッツジェラルドだ。神ではない」
「けれどあなたは、わたしを裁きに来た」
子供は何かを唱えるようにそれを言う。
「〈恵み〉を与えた者達を従えて、わたしを排しに来た。わたしの中の、〈赤き獣〉を」
〈恵み〉、〈赤き獣〉。
その言葉は知らない。聞いたことがない。けれど、心当たりはある。
「聖書か」
「どちらかというと黙示録ですかね」
「だがそれが何だ。何を意味している」
「さあ、僕には何とも」
首を振る。そういったことに詳しくはない。詳しいのは、別の男だ。
「ちょうど良いじゃない。牧師様にこの子を預けてみれば」
ミッチェルも同じ人間を思い出したらしい。興味なさげに顔を背けた。
「子守役にもちょうど良いでしょうし」
「ふむ、子守か。それは面白そうだな」
面白そう、というのは、この子供を捕らえ置くことに対してではなく、牧師殿に子守をさせることに対しての感想だ。確かに彼――ホーソーンは眼鏡の似合う堅物だ、それが子守をする光景を想像してみれば、「面白そう」という感想は間違ってはいない。間違ってはいない、が。
「……さすがに手伝いくらいはするか」
これが動機と知っては、ホーソーンもこの子供も憐れだ。
――ふと。
「お願い」
悲鳴に似た叫び声が木霊した。
「お願い……!」
子供が胸を強く押さえて叫ぶ。祈るように、乞うように、慟哭を上げる。
「お願い、もう、終わらせて。お願いします、お願いします、神様……!」
泣き叫ぶような悲痛な声を上げて、それは強く目を瞑る。眦から雫が零れ落ちる。
「お願いします……わたしを、〈赤き獣〉を、殺して……あの人を殺したわたしを、殺して……全てを壊すわたしを、殺して……わたしが〈赤き獣〉なんです、皆を不幸に陥れる獣なんです、でもわたしじゃ殺せなかった、だから、殺してください、あなたの御手で、裁いてください……!」
胸を抱えて、その中にいる何かを抱えて、それは顔を上げた。真っ直ぐな目がフィッツジェラルドを見据える。乞うように、願うように。
片手を必死に伸ばして、フィッツジェラルドのズボンを掴み、縋りついて。
降り出した雨空のように、暗い色を宿した眼差しで。
雫を宿しながら。
「神様……!」
目の前にいる男は、神ではないというのに。