第2幕-続
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***
通話を終えた携帯電話を耳から離し、賢治は太宰へと声をかけた。
「クリスさんと国木田さんが包囲網を突破したそうです」
「了解、じゃあ次の段階だね」
よいしょ、と太宰が倉庫の外壁から背を離す。
「とはいえ私達は何かを追いかけているふりをしながら散歩して、出会った警官に情報を垂れ流すだけなのだけれど」
「夜はいつも寝てしまいますから、お散歩はあまりしたことがありません。風が気持ち良いですね!」
大自然を前にしているかのように両手を広げ、賢治は「このまま走ったら楽しそうです!」と笑った。その様子を太宰は物珍しげに眺める。
「……ねえ、賢治君」
「はい! 何でしょう?」
「一つ訊いても良い?」
賢治はその大きな目をそのままに太宰を見つめる。無邪気を体現したかのような少年の前で、太宰は笑みもなく佇んでいる。
「……君は私が怖くないのかい?」
「太宰さんをですか?」
「知っているだろう。私が元々ポートマフィアだったことを。ここはその足元だ」
闇に溶け込むような暗い色が、太宰の髪を、背を、目を、塗り潰している。
「さっき私が誰に会っていたかも知っているだろう? ……怖くないのかい?」
「それは太宰さんが僕を誘拐したりポートマフィアに売り飛ばしたりするということでしょうか?」
肯定も否定もしない太宰へ、賢治はいつも通りの笑顔を向けた。ひまわりの花を思わせる、明るく眩しい笑顔。
太宰にとっては身を焦がすほどの光。
「考えてもいませんでした。でも、もしそうなったら悲しいですね」
「悲しい……だけかい?」
「そうですよ。太宰さんには太宰さんの考えがあります。それが結果的に僕にとって悲しいものだった、ただそれだけです」
歩きながら話しましょうか、と賢治が目的地へと向かうべく歩き始めた。太宰は一つ頷き、その隣に並ぶ。
「僕達は一人一人が考えて、他の人と仲良くなります。時々喧嘩をします。それが僕達です。太陽がそこにあって、大地がここにあって、草木が芽生えているように、僕達はここにいます。時々水が枯れたり作物が雨に流されたり虫で駄目になったりしますけど、それは誰かがそうしたかったわけではなくて、太陽がそこにあって空がそこにあって、大地と僕達がそこにいたからそうなっただけです。もしそういう事態になったのなら、水を引いてきたり、植え直したり、肥料を見直したりすれば良いんです」
それと同じですよ、と賢治は言った。太宰と対照的な金髪が月明かりを受けて輝いた。
「太宰さんが考えてやったことなら僕達はそれを受けて行動していけば良いんです」
「恨んだりすることは?」
「恨んだところで作物が戻るわけではないですし……それよりも、その後どうするかの方が重要ですよね」
そうか、と太宰は呟いた。呟いて、微笑んだ。
「……君のような人はあまり出会ったことがないからね。興味深い話だったよ、ありがとう。それで……クリスちゃんにも、君はそう思うのかい?」
「はい」
「探偵社員ではない犯罪者なのに?」
「村が違っていても互いの田畑を気遣う間柄なら、その時点で仲間です」
賢治は気負いなく答えた。数式を述べるように、事実を報告するように、当然のことを言う素振りだった。そうか、と太宰は再度呟いて目を閉じる。
クリスは一人で行動する。一人で考え、一人で選択し、味方を裏切り敵を屠る。それは彼女自身のためだ。傍目から見れば我欲、横暴な思考。けれど。
――彼女の本当の心は、既にこちらへ届いている。