第2幕-続
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荒い呼吸が、聞こえてくる。それが自分のものだと少女が気付くのと、少女が目の前の光景を把握するのは同時だった。
「……ッ、ぁ……」
細切れの呼吸が暗い空に放たれる。好奇心に輝く子供の眼差しのように、星が少女をじっと見下ろしている。
少女もまた、見ていた。
目の前を走った銀色を。それによって細切れになったものを。ぱたた、とそれから赤い雨が降ってきたものを。
全て、見ていた。
――あの時と同じ光景を。
「……ど、して」
その問いかけは何に向けたものか。
「違う」
頰を伝うのは他者の血ではない。
「違う、こうじゃない、こうじゃなかった……なのに、どうして……!」
叫ぶ。
冷たい風が赤く粘る髪を撫でる。その風が、遠くから音を乗せてくる。
サイレンの音。それは、警鐘。
道路端に停まった車から慌ただしい足音が飛び出してくる。
「動くな!」
拳銃の向けられる気配。目の前の惨状に慄きつつも、彼らはその中央に座り込む少女から銃口を逸らさない。
「連続猟奇殺人事件の参考人として署に同行してもらう」
――連れて行かれる。
それは、彼女のことがこの国に知られるということ。世界にこの身に秘められた技術が広まるということ。
駄目だ、と少女は呆然と思う。
「……そうか」
「何?」
「そうだったんだ」
ゆらり、と少女が立ち上がる。血と肉片に汚れたその姿は猟奇そのもの。けれどその青の目は塗り潰され、覇気はない。彼女に殺意が宿っていたのなら、彼女に抵抗の意思があったのなら、人々は躊躇いなく彼女を確保することができたのだろう。
けれど誰もが何もできなかった。
そこにいたのは――一つの、絶望だった。
「また、まちがったんだ」
掠れた声は歌うようにそれを告げる。
「わたしは、しんではいけない。しられてはいけない。なにがあっても……ころして、にげなきゃ、いけなかった」
――ゴオッ!
突如彼女を守るように風が渦巻く。何だ、うわッ、と声が交錯する。混乱の中で少女は静かに佇む。
雫が、彼女の頰から引き離される。
突然の風に誰もが目元を腕で庇う。しかしその強張った体を嘲笑うように、ピタリと突風は消えた。
白昼夢から解放されたかのような異様な静けさ。誰もが呆気に取られたように周囲を見渡し、互いに顔を合わせて夢ではなかったことを確認し、そして。
「い、いない……!」
目の前にいたはずの少女が消えたことを、知る。