2024/12月(7~37)


 同僚の怒りっぷりったらなかった。わなわなと拳を震わせて、地団駄を踏んだかと思ったらアジトの壁をゴンゴンとやり始めたもんだから、通りがかっただけの俺は呆気に取られて見守ることしかできなかった。パラパラと足下に遺跡片が散らばり始めて、漸く「お、おい」と声をかけると、それから彼奴はゴチンと額を割った。ずるずる凭れて座り込み、あとは声にならないああああという濁声を漏らしながら、仮面を覆ってすすり泣いた。
 何時いかなる時も冷静沈着・不倶戴天の志を胸に、お上へ刃を向けるのがイーガという集団なわけだが、故にこうまで取り乱した同輩を見るのは初めてである。ぐすぐすと鼻を鳴らす音は、隠密の輩だと考えると情けない。
「へそくりがないッ」
 突如響く大音声。ドキッ、と心臓が高く跳ねた。
「無くなってる!コツコツ貯めた俺のッ、300ルピーが!」
「そ、そこに置いてたのか」
「さいあくだあああ・・・っ」
 彼が泣き叫んでいるのは、アジトの最奥の、棘トラップを乗り越えた先である。
 彼はここに、へそくりを隠していたらしい。それがいつのまにやら無くなっていると。
 彼は、ダンッと岩床を殴って吠えた。
「リンクの所為だッッッ」
 なんと、あのにっくき天敵が?
「この前あいつが侵入したとき・・・俺の金を盗んでいったんだッ」
 確かに、数日前にリンクが侵入したと大騒ぎになったことがあった。大した被害はなかったと聞いていたが、まさか同僚の心労に繋がるなんて誰が思ったろう。
 同僚は二度三度と力の限り打ち付け、それからコガネムシのように地に伏せた。
 なんと声を掛ければ良いか。と迷っていると、突然、彼が立ち上がる。腰に提げていた首刈刀を握り込んで。
 ゆらりと傾く影が、まるで亡霊みたいだ。
「この恨み・・・晴らさでおくべきか。俺は今日から修羅になるぞ、あいつの首を刈る。俺がどれだけ苦労してあの金を貯めたか、目にもの見せてやるッ」
 赤い月の晩に満ちるどす黒いオーラが、髷の穴から揺曳している。それは決して俺の空目じゃないはずだ。
 何も言わず、ブツブツ呟きながら去る男の背中を見送った。

 恨みの力こそイーガを突き動かす原動力であるのは間違いない。彼がやる気になったのであれば、結果オーライなのだろうか?
 いやしかし、ちと大事になった。
 何を隠そう、彼のへそくりをくすねたのは俺である。厳密に、そして包み隠さず言い訳をすれば、俺はこれが、誰かのへそくりだとは知らなかった。純粋に、団の資金の一つなんだと思ってた。
 配給する用のおやつバナナ、買っちまったんだよなぁ既に。
 すまん。俺は去っていった扉の方へ、両手を合わせて頭を下げた。
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