1000字練習
「夜光石」
「き……き……キノコ」
「言の葉」
「は~……はち! 数字の八!」
「稚児」
「ゴロン……ぞく」
「ゴロン族~? 族なんてありかよ」
「ありにしてくれよ、じゃないとゴロンで終わっちまうだろ」
「仕方ねえなぁ。くー……下し薬」
うららかな日和だった。大地には煌びやかな日光が絶え間なく降り注ぎ、柔らかな風が青々しい草花を優しく撫でていく。日光浴日和。にもかかわらずその二人が潜むのは、湿っぽくって薄暗い林の中だ。お互いが聞こえる程度の声量で、ブツブツと単語を呟き続けるだけだった。
亡国の姫と、従者たる剣士の首をひた狙うイーガ団。そこの構成員として、二人はにっくき剣士が罠にかかるのを待っている。彼らの大好物であるツルギバナナを道に据え、あいつがまぬけにも餌を拾う瞬間を襲おうという作戦なのだ。
とはいえ、見張り出して早数日。剣士はおろか、行商人や冒険者の一人だって街道を通らない。じめじめした草葉に身を隠さねばならぬ現状、アリンコの数をかぞえ始めるくらいには、退屈でしょうがないのが本音である。
「り、り、リンクのくそやろう」
「なんだそりゃ。ウンカイカモメ」
「め……、め……めんたま」
「もう言わなかったか? さっき」
「さっきのは目玉だ。今度はめんたま」
「……。まあいいや、摩天楼」
「まー、ま、……マント」
「ブー、それはもう言いましたー」
「まー……ま……ま……」
顔だけはバナナトラップの方を向いてはいるが、視線の焦点を合わせているのは頭の中だ。ま、ま、ま……。口の中で転がし続けても、なんにも出てこない。既にゲームを始めてから小一時間。戦闘訓練に明け暮れてきた人間が長時間の言葉遊びに興じられたことこそ、評価されるべきかもしれない。
「降参か?」と覗き込まれた瞬間だった。堪えきれないように「だー!」と日の透ける木の葉を仰ぎ、それから構成員は幹に頭をぶつけて寄りかかった。
「くそー、こういうゲームはてんでダメだ。なーんも出てきやしねえっ」
「へへ、勝負にならねぇな、もうちっと相手になってくれりゃ、賭け物でもするんだが」
言われっぱなしの構成員は口の中で「くそ」と悪態を吐く。得意げに笑う相方の鼻を明かしたいものだが、惨敗を喫した今、同じゲームでどうこうできると思えない。
「じゃあ、あれしようぜ。いっせっせ」悔しまぎれに提案したのは、かつて自分の育った村で嗜んだ手慰みの名前だった。
「いっせ……あんだって?」
「なんだよ、知らないのか。手を揃えて、いっせっせーのって掛け声で親指を立てるんだ。そいで宣言した数字と立てた親指の数が合ってたら、片手を外して一抜け。両手とも抜けたら勝ち」
「ああ、いっせーのーせのことか。いっせっせってなんだよ」
「え? いっせっせって言わねえの?」
ポカンと首をひねる。それには答えず、相方は「まあなんでもいいや」と拳を構えた。
「んじゃま、やろうぜ。お前先行でいいぞ」
「余裕ぶっこきがやって。今に見てろ。今度は自信があるんだ。なんなら賭けをしたっていい。どうだ?」
「言ったな? じゃあバナナを賭けるか。勝った方が罠に使ってるあれを貰い受けるってのぁどうだ」
「よっしゃ、それでいこう。早抜けの鬼と呼ばれた俺の力、とくと見せてやんよ」
「ふふふ、抜け業師のあだ名は伊達じゃねえぞ」
そうして二人は小さく背中を丸め、相対する。気持ちだけはライネルとグリオークの闘志を背負い、そうして戦いの火ぶたは切って落とされた。
「いっせっせの1ッ」「いっせっせの4ッ!」素早い勢いで親指を立たせようとする一方、声の圧によって親指を留めようとする相方。次々に繰り出される呪文と零から四までの数字……両者共々一歩も引かぬ大試合である。
だから、彼らは知らなかった。林の陰から、彼らの声が漏れ聞こえていたことに。
ロイヤルブルーの衣を纏う剣士が、その浅葱色の瞳を向けていたことに。
「……」
剣士は、街道沿いで燦燦と日の光を浴びるツルギバナナを手に取り、懐へ入れた。
もう一度林を一瞥する。けれどもやっぱり二人は気付かない。そして剣士は、なにも言わず静かに立ち去っていく。
後には、呪文と数字の掛け声だけが、その場に響くだけだった。
「き……き……キノコ」
「言の葉」
「は~……はち! 数字の八!」
「稚児」
「ゴロン……ぞく」
「ゴロン族~? 族なんてありかよ」
「ありにしてくれよ、じゃないとゴロンで終わっちまうだろ」
「仕方ねえなぁ。くー……下し薬」
うららかな日和だった。大地には煌びやかな日光が絶え間なく降り注ぎ、柔らかな風が青々しい草花を優しく撫でていく。日光浴日和。にもかかわらずその二人が潜むのは、湿っぽくって薄暗い林の中だ。お互いが聞こえる程度の声量で、ブツブツと単語を呟き続けるだけだった。
亡国の姫と、従者たる剣士の首をひた狙うイーガ団。そこの構成員として、二人はにっくき剣士が罠にかかるのを待っている。彼らの大好物であるツルギバナナを道に据え、あいつがまぬけにも餌を拾う瞬間を襲おうという作戦なのだ。
とはいえ、見張り出して早数日。剣士はおろか、行商人や冒険者の一人だって街道を通らない。じめじめした草葉に身を隠さねばならぬ現状、アリンコの数をかぞえ始めるくらいには、退屈でしょうがないのが本音である。
「り、り、リンクのくそやろう」
「なんだそりゃ。ウンカイカモメ」
「め……、め……めんたま」
「もう言わなかったか? さっき」
「さっきのは目玉だ。今度はめんたま」
「……。まあいいや、摩天楼」
「まー、ま、……マント」
「ブー、それはもう言いましたー」
「まー……ま……ま……」
顔だけはバナナトラップの方を向いてはいるが、視線の焦点を合わせているのは頭の中だ。ま、ま、ま……。口の中で転がし続けても、なんにも出てこない。既にゲームを始めてから小一時間。戦闘訓練に明け暮れてきた人間が長時間の言葉遊びに興じられたことこそ、評価されるべきかもしれない。
「降参か?」と覗き込まれた瞬間だった。堪えきれないように「だー!」と日の透ける木の葉を仰ぎ、それから構成員は幹に頭をぶつけて寄りかかった。
「くそー、こういうゲームはてんでダメだ。なーんも出てきやしねえっ」
「へへ、勝負にならねぇな、もうちっと相手になってくれりゃ、賭け物でもするんだが」
言われっぱなしの構成員は口の中で「くそ」と悪態を吐く。得意げに笑う相方の鼻を明かしたいものだが、惨敗を喫した今、同じゲームでどうこうできると思えない。
「じゃあ、あれしようぜ。いっせっせ」悔しまぎれに提案したのは、かつて自分の育った村で嗜んだ手慰みの名前だった。
「いっせ……あんだって?」
「なんだよ、知らないのか。手を揃えて、いっせっせーのって掛け声で親指を立てるんだ。そいで宣言した数字と立てた親指の数が合ってたら、片手を外して一抜け。両手とも抜けたら勝ち」
「ああ、いっせーのーせのことか。いっせっせってなんだよ」
「え? いっせっせって言わねえの?」
ポカンと首をひねる。それには答えず、相方は「まあなんでもいいや」と拳を構えた。
「んじゃま、やろうぜ。お前先行でいいぞ」
「余裕ぶっこきがやって。今に見てろ。今度は自信があるんだ。なんなら賭けをしたっていい。どうだ?」
「言ったな? じゃあバナナを賭けるか。勝った方が罠に使ってるあれを貰い受けるってのぁどうだ」
「よっしゃ、それでいこう。早抜けの鬼と呼ばれた俺の力、とくと見せてやんよ」
「ふふふ、抜け業師のあだ名は伊達じゃねえぞ」
そうして二人は小さく背中を丸め、相対する。気持ちだけはライネルとグリオークの闘志を背負い、そうして戦いの火ぶたは切って落とされた。
「いっせっせの1ッ」「いっせっせの4ッ!」素早い勢いで親指を立たせようとする一方、声の圧によって親指を留めようとする相方。次々に繰り出される呪文と零から四までの数字……両者共々一歩も引かぬ大試合である。
だから、彼らは知らなかった。林の陰から、彼らの声が漏れ聞こえていたことに。
ロイヤルブルーの衣を纏う剣士が、その浅葱色の瞳を向けていたことに。
「……」
剣士は、街道沿いで燦燦と日の光を浴びるツルギバナナを手に取り、懐へ入れた。
もう一度林を一瞥する。けれどもやっぱり二人は気付かない。そして剣士は、なにも言わず静かに立ち去っていく。
後には、呪文と数字の掛け声だけが、その場に響くだけだった。