1000字練習
おや、旅の人ですか。こんな夜に人様と会うなんて珍しいこともあるもんだ。まあまあ、せっかくなんで火にあたっていきなって。何かの縁だ。ちょっと話し相手にでもなってくんさいや。
おいらぁしがない冒険者でね。廃墟に残ったお宝探してあてもなくフラフラ歩いてるんだが、こんな生活だと人と話をする機会ってのも儘ならねえわけさ。おいら自身の話を聞いてほしい気もあるし、出会った御人の話を聞きたいと思っちまってな。あんただって、そんな大仰なナリしてるんだ。この気持ち、わかってくれるじゃないかい。な? そうだろう?
ただね、実のところ、おいらが人と話したいってのは別の理由もあってだね。ほんと言うとさ、おいらこの国の人間じゃないわけだ。え? なんとなくわかったって? 服がこっちのと随分違うって? さすがの観察眼! こーんなズタボロの格好をしちゃいるが、故郷じゃそれなりの屋敷も持っててね。ハイラルにわたったのは、なんちゅーか、興味本位ってやつかな。百年前に滅んだ黄金の国ハイラル! 魔物と不可思議なカラクリ兵が蔓延ってて危険なんて言われようと、オイラの知的好奇心を妨げる壁にはならんかったわけだ。
うん? うん、うん、見たよ。魔物もカラクリ兵も。いやあ怖かった。ゾクゾクした。しかし、ありゃあ堪らんね。なんちゅーか、栄華を誇ったこの国を、ああいう手合いが闊歩して人を脅かしてるってのが堪らんじゃないですか。うちの国には居ないもんだし、それに、たまにあれらの残骸が落ちてたりすンだろう? これがね、またいい金になるんだわ。なかなか儲けさせてもらいましてな。魔物の角なんかは武具の素材なんかに使ってるらしいが、観賞用としても人気が高いらしくてね。
……え? 悪趣味だって? まぁ、人間なんてそんなもんさ。得体の知れないもんってのは、それだけでロマンチシズム掻き立てられるもんなんだ。なんにせよ珍しいしな。……ふんふん。どうやらあんたは、生粋のハイラル国民なんだな。したらば、ちょいと聞いてもいいかい? おいらの持ってるモンで、あんたの意見を聞きてえモンがあるんだが。
どうだい、え、見覚えあるかい? マァ見た通り、木でできた仮面だわな。不気味だろ? 一つ目でさぁ。どうやらシーカーって民族の紋章らしいんだが、なんちゅーか・・おいらが見たのとちょっくら違う感じがするんだよ。ほら、たぶんこっち向きで頭に通すんだが……これだと模様がな、逆さになっちまうんだわ。おいらが見たシーカー模様は、こっち。あんたも見たことあるかい? なんでだろうな~って気になっててな、もし知ってたら教えてほしいんだが。
……え? どこで手に入れたって? や、実はね、これも落ちてるのを拾ったんだわ。たらたらいろんなところをほっつき歩いてると、これがそこここに落ちてんのさ。最初は気に留めなかったんだよ? でもあるとき裏側に、暗号みたいなもんが刻まれてんのに気付いちまったんだわ。全部が全部、違うこと書いてあってさ! 模様が逆ってのも気になるし。で、そんときからかな、見つけたら拾い集めるようになっちまってな。ちょっとした蒐集癖というかね。ハイラル王国滅亡の秘密が隠されてんのかもって思ったら、ロマンチシズム掻き立てられるだろ?
で、知ってんのかい? 知らないのかい? なんでもいいんだ。もし知ってるなら、俺のコレクションを見せてやるよ! 今、20ばかり持ってんだ。な、どうだ? これがなんなのか、思い当たる節はあるかい?
冒険者の男が身を乗り出して一呼吸置く。
小さな相槌で会話を促していた豊満な腹の男はしばらく黙った。辺りには、風が林を抜けるザラザラした音が満ちている。
そうしてたっぷりと間を取った後、静かに口を開いた。
「お前さんの持っているそれは、呪われた暗殺集団の仮面だよ」
は……と小さな吐息と共に口が半開きになる。合間を縫って、焚き火の弾ける音がした。
「その昔にシーカー一族から離反した一派の証だ。王家に裏切られたことで恨みを抱き、御家断絶を狙って彼らは血の道に進んだ。元々この国の暗部を担ってた連中さ。そっからというもの、今度は逆に王家の人間の首を刈るようになっちまった。血を血で洗う戦争みたいなもんだからなぁ、道っぱたに落ちてるのは、身につけていた人間が死んだからだ。全員同じ面をつけてるから、いろんなところに落ちてんだ」
淡々とした声。冒険者の男は口角をヒクつかせ、乗り出した身を引いた。
手の中に収まるのは、男を見上げる、土汚れた一つ目の仮面。
「へ、へえ……」張り付いたままの笑みで紡ぐ。「俺は知らない間に遺品を収集してたってことか。そりゃあ……ロマンチシズムだな」男の顔を覗いた。「でも、なんであんた、そんな事知ってんだ」
ざらざら騒ぐ周囲の梢。湿気を孕んだ青臭い空気が、ねっとりと肌に纏わりつくように。
火の揺れを見つめていた男の瞳に、ギョロリとした眼光が灯った。
「返してほしいからさ、その仮面を」
ふっ、と暗がりに影があった。
いつのまに現れたのか、ぼ、ぼ、と二人を囲むように、増えていく。
はっきりしない立ち姿。しかし身体が赤い。濡れてる? 全身が? なんで──。
ひ、と息を飲んだ。白い顔。蒐集していたあの面だ。いくつも同じ影が立っていて、全員が同じ姿をしている。
腰掛けていた倒木からずり落ち、後ずさる。声が出ない。音もない。にじりよってくる。こいつら、なに──。
突然、腕に痛みが走る。
「返してくれ、俺達の仮面」
さっきまで話していたはずの男が、白い、一つ目になっている。
冒険者の男は今度こそ腹からの濁声で叫んだ。思い切り腕を振り回して仮面を投げつけ、足を縺れさせながら立ち上がる。
それからは振り返ることもせず、全力で濃い林の暗がりの中へ走り去っていった。
────
背嚢をひっくり返すと、見慣れた木の面が湿った地面の上にガラガラ広がる。まんまと置いていったそれは、聞いた通り20はあるようだった。
周囲を取り囲んだ団員から、おお~、と歓声があがり、それから次々に骨の浮いた手が伸びてきて、仮面が次々に掴み取られていく。
「いや~無くしたと思ってたから、助かりました! 本当にありがとうございます!」
「まっ、団員が困ってんなら、これくらいは仕方ねえわな」
だっはっは、と笑ったのは、その場で冒険者の話を聞いていた男だ。ツルギバナナを片手に食べながら、焚火の傍で仮面の山を囲む後ろ姿を眺める。
「これ俺んだ! 母ちゃんの名前書いてあるから間違いねえや!」
「やっぱ自分のはしっくり来るなぁ、鼻んところがな、いい感じにフィットして」
「この傷、俺がライネルにやられたときのやつだ。間違いねえ、やっと見つけた」
「自分の面じゃないと、やっぱいけねえよなあ」
ひとしきり喜びの声を上げた団員は、ひとり、ひとりと、梢の暗がりに進み、消えていった。音もなく、気配もなく。彼らはこのまま、誰にも知られずに影の奥へと旅立っていく。
「もう無くすんじゃねえぞ。こりゃ俺達の誇りだかんな。拾いに来んのも大変なんだから」
「はい! もう無くしません! これでようやく動けます!」
ではいってきます、コーガ様。気付けば最後の声が残響を残し、20人の団員は姿を消していた。
バナナを食べきった男──彼らの長であるコーガは、はぁと溜息を零す。
「まったく手間かけさせんだから、お前らってやつはよぉ」
コーガは焚火に白い木をくべた。一枚。また一枚。
徐々に火の手が猛る。面下の双眼には、踊るような火柱の揺らつきが、ゆらゆらと映っていた。
おいらぁしがない冒険者でね。廃墟に残ったお宝探してあてもなくフラフラ歩いてるんだが、こんな生活だと人と話をする機会ってのも儘ならねえわけさ。おいら自身の話を聞いてほしい気もあるし、出会った御人の話を聞きたいと思っちまってな。あんただって、そんな大仰なナリしてるんだ。この気持ち、わかってくれるじゃないかい。な? そうだろう?
ただね、実のところ、おいらが人と話したいってのは別の理由もあってだね。ほんと言うとさ、おいらこの国の人間じゃないわけだ。え? なんとなくわかったって? 服がこっちのと随分違うって? さすがの観察眼! こーんなズタボロの格好をしちゃいるが、故郷じゃそれなりの屋敷も持っててね。ハイラルにわたったのは、なんちゅーか、興味本位ってやつかな。百年前に滅んだ黄金の国ハイラル! 魔物と不可思議なカラクリ兵が蔓延ってて危険なんて言われようと、オイラの知的好奇心を妨げる壁にはならんかったわけだ。
うん? うん、うん、見たよ。魔物もカラクリ兵も。いやあ怖かった。ゾクゾクした。しかし、ありゃあ堪らんね。なんちゅーか、栄華を誇ったこの国を、ああいう手合いが闊歩して人を脅かしてるってのが堪らんじゃないですか。うちの国には居ないもんだし、それに、たまにあれらの残骸が落ちてたりすンだろう? これがね、またいい金になるんだわ。なかなか儲けさせてもらいましてな。魔物の角なんかは武具の素材なんかに使ってるらしいが、観賞用としても人気が高いらしくてね。
……え? 悪趣味だって? まぁ、人間なんてそんなもんさ。得体の知れないもんってのは、それだけでロマンチシズム掻き立てられるもんなんだ。なんにせよ珍しいしな。……ふんふん。どうやらあんたは、生粋のハイラル国民なんだな。したらば、ちょいと聞いてもいいかい? おいらの持ってるモンで、あんたの意見を聞きてえモンがあるんだが。
どうだい、え、見覚えあるかい? マァ見た通り、木でできた仮面だわな。不気味だろ? 一つ目でさぁ。どうやらシーカーって民族の紋章らしいんだが、なんちゅーか・・おいらが見たのとちょっくら違う感じがするんだよ。ほら、たぶんこっち向きで頭に通すんだが……これだと模様がな、逆さになっちまうんだわ。おいらが見たシーカー模様は、こっち。あんたも見たことあるかい? なんでだろうな~って気になっててな、もし知ってたら教えてほしいんだが。
……え? どこで手に入れたって? や、実はね、これも落ちてるのを拾ったんだわ。たらたらいろんなところをほっつき歩いてると、これがそこここに落ちてんのさ。最初は気に留めなかったんだよ? でもあるとき裏側に、暗号みたいなもんが刻まれてんのに気付いちまったんだわ。全部が全部、違うこと書いてあってさ! 模様が逆ってのも気になるし。で、そんときからかな、見つけたら拾い集めるようになっちまってな。ちょっとした蒐集癖というかね。ハイラル王国滅亡の秘密が隠されてんのかもって思ったら、ロマンチシズム掻き立てられるだろ?
で、知ってんのかい? 知らないのかい? なんでもいいんだ。もし知ってるなら、俺のコレクションを見せてやるよ! 今、20ばかり持ってんだ。な、どうだ? これがなんなのか、思い当たる節はあるかい?
冒険者の男が身を乗り出して一呼吸置く。
小さな相槌で会話を促していた豊満な腹の男はしばらく黙った。辺りには、風が林を抜けるザラザラした音が満ちている。
そうしてたっぷりと間を取った後、静かに口を開いた。
「お前さんの持っているそれは、呪われた暗殺集団の仮面だよ」
は……と小さな吐息と共に口が半開きになる。合間を縫って、焚き火の弾ける音がした。
「その昔にシーカー一族から離反した一派の証だ。王家に裏切られたことで恨みを抱き、御家断絶を狙って彼らは血の道に進んだ。元々この国の暗部を担ってた連中さ。そっからというもの、今度は逆に王家の人間の首を刈るようになっちまった。血を血で洗う戦争みたいなもんだからなぁ、道っぱたに落ちてるのは、身につけていた人間が死んだからだ。全員同じ面をつけてるから、いろんなところに落ちてんだ」
淡々とした声。冒険者の男は口角をヒクつかせ、乗り出した身を引いた。
手の中に収まるのは、男を見上げる、土汚れた一つ目の仮面。
「へ、へえ……」張り付いたままの笑みで紡ぐ。「俺は知らない間に遺品を収集してたってことか。そりゃあ……ロマンチシズムだな」男の顔を覗いた。「でも、なんであんた、そんな事知ってんだ」
ざらざら騒ぐ周囲の梢。湿気を孕んだ青臭い空気が、ねっとりと肌に纏わりつくように。
火の揺れを見つめていた男の瞳に、ギョロリとした眼光が灯った。
「返してほしいからさ、その仮面を」
ふっ、と暗がりに影があった。
いつのまに現れたのか、ぼ、ぼ、と二人を囲むように、増えていく。
はっきりしない立ち姿。しかし身体が赤い。濡れてる? 全身が? なんで──。
ひ、と息を飲んだ。白い顔。蒐集していたあの面だ。いくつも同じ影が立っていて、全員が同じ姿をしている。
腰掛けていた倒木からずり落ち、後ずさる。声が出ない。音もない。にじりよってくる。こいつら、なに──。
突然、腕に痛みが走る。
「返してくれ、俺達の仮面」
さっきまで話していたはずの男が、白い、一つ目になっている。
冒険者の男は今度こそ腹からの濁声で叫んだ。思い切り腕を振り回して仮面を投げつけ、足を縺れさせながら立ち上がる。
それからは振り返ることもせず、全力で濃い林の暗がりの中へ走り去っていった。
────
背嚢をひっくり返すと、見慣れた木の面が湿った地面の上にガラガラ広がる。まんまと置いていったそれは、聞いた通り20はあるようだった。
周囲を取り囲んだ団員から、おお~、と歓声があがり、それから次々に骨の浮いた手が伸びてきて、仮面が次々に掴み取られていく。
「いや~無くしたと思ってたから、助かりました! 本当にありがとうございます!」
「まっ、団員が困ってんなら、これくらいは仕方ねえわな」
だっはっは、と笑ったのは、その場で冒険者の話を聞いていた男だ。ツルギバナナを片手に食べながら、焚火の傍で仮面の山を囲む後ろ姿を眺める。
「これ俺んだ! 母ちゃんの名前書いてあるから間違いねえや!」
「やっぱ自分のはしっくり来るなぁ、鼻んところがな、いい感じにフィットして」
「この傷、俺がライネルにやられたときのやつだ。間違いねえ、やっと見つけた」
「自分の面じゃないと、やっぱいけねえよなあ」
ひとしきり喜びの声を上げた団員は、ひとり、ひとりと、梢の暗がりに進み、消えていった。音もなく、気配もなく。彼らはこのまま、誰にも知られずに影の奥へと旅立っていく。
「もう無くすんじゃねえぞ。こりゃ俺達の誇りだかんな。拾いに来んのも大変なんだから」
「はい! もう無くしません! これでようやく動けます!」
ではいってきます、コーガ様。気付けば最後の声が残響を残し、20人の団員は姿を消していた。
バナナを食べきった男──彼らの長であるコーガは、はぁと溜息を零す。
「まったく手間かけさせんだから、お前らってやつはよぉ」
コーガは焚火に白い木をくべた。一枚。また一枚。
徐々に火の手が猛る。面下の双眼には、踊るような火柱の揺らつきが、ゆらゆらと映っていた。